田中嵩二の宅建士&賃貸管理士試験ブログ

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土地を所有していると思ってお金を貸したが、その土地は仮装売買により無効で実は所有者ではなかった場合どうなるの?

Q.土地を所有していると思ってお金を貸したが、その土地は仮装売買により無効で実は所有者ではなかった場合どうなるの?

 

A.その土地から債権回収を図ることは困難です。

 

平成28年度宅建試験に出題された問題をピックアップして解説して行きます。

 

 


意思表示って何?

民法を勉強して最初に驚くのがその用語の難しさです。意思表示というのもその一つです。「意志」と書かないのが一般用語と違うところです。宅建試験の問題文の中でも、普通に「意思表示」や「法律行為」なる言葉がその説明なしに使われているので、一度はその意味をしっかりと理解しておく必要があります。「意思表示」とは、①表意者が一定の効果を欲する意思(効果意思)と、②それを外部に発表する意思(表示意思)、③表示意思に基づいて発表する行為(表示行為)の3つを要素して成り立つ「法律行為」の前提条件です。たとえば、土地を買う契約をして代金を払って土地の移転登記を済ませようと欲するのが効果意思、その上でその土地の販売を行っている売主に媒介業者を通じて買うことを伝えようと決めることが表示意思、実際に媒介業者に行き購入の意思を伝えることが表示行為です。このような意思表示によって「代金支払い」とか「移転登記」という権利や義務(民法では「効果」と表現します)が発生する行為(契約など)を「法律行為」といいます(学説上の争いはあります)。

 

差し押さえをまぬがれるために知人に頼んで売ったことにした場合の効果は?

このような行為を虚偽表示といい、民法では無効とされています。なぜ無効となるのでしょうか。それは、前述した「効果意思」を欲する意思がなく、その自覚もあり、相手方もそれをわかった上で合意したからです。これを意思理論とも呼び、心裡留保(一方的に嘘の意思表示をすること)、錯誤(嘘の意思表示をしたことに気付いていないこと)、意思無能力(自由な意思表示をする前提を欠くこと)に共通する概念です。100年前のドイツ民法の影響を受けた規定と言われています。

 

虚偽表示で無効な所有者から土地を購入したらどうなるの?

不動産以外の物(動産といいます)を、売主の所有物と過失なく信じて購入したような場合は原則として即時にその所有権を取得します(即時取得)。公信の原則ともいいます。見た目を信じた人を保護しましょうということです。実は、この規定の「不動産」バージョンの規定が民法には存在しません。つまり、売主の所有物と過失なく信じて購入しても、それだけでは即時にその所有権を取得することができません。しかし、それでは取引に入る人の保護が動産に比べないがしろになりすぎです。そこで、虚偽表示が規定されている94条の2項で、「善意の第三者」に「虚偽表示無効」を主張できない旨が定められています。

 

民法94条2項の「第三者」ってどんな人を言うの?

民法94条2項の「第三者」とは、虚偽表示の当事者およびその包括承継人(相続人など)以外の者で、虚偽表示の外形について新しく法律上の利害関係をもつようになった者をいいます。また、この「法律上の利害関係」とは、虚偽表示によって無効になることで権利を失ったり義務を負う立場を意味します。具体的には、過去問と解説を参照してください。

 

学習ポイント

法律行為の要素として意思表示がある。②意思表示には効果意思・表示意思・表示行為がある。③虚偽表示の効果は無効であるが善意の第三者には主張できない。

 

(過去問にチャレンジ!)

【問 題】 Aは、その所有する甲土地を譲渡する意思がないのに、Bと通謀して、Aを売主、Bを買主とする甲土地の仮装の売買契約を締結した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。なお、この問において「善意」又は「悪意」とは、虚偽表示の事実についての善意又は悪意とする。(2015年度問2)

  1. 善意のCがBから甲土地を買い受けた場合、Cがいまだ登記を備えていなくても、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができない。
  2. 善意のCが、Bとの間で、Bが甲土地上に建てた乙建物の賃貸借契約(貸主B、借主C)を締結した場合、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができない。
  3. Bの債権者である善意のCが、甲土地を差し押さえた場合、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができない。
  4. 甲土地がBから悪意のCへ、Cから善意のDへと譲渡された場合、AはAB間の売買契約の無効をDに主張することができない。
正解:2
  1. 〇 相手方と通じてした虚偽の意思表示(通謀虚偽表示)は無効です。しかし、この無効は善意の第三者には対抗することができません。そして、第三者は、善意でありさえすればよく、登記がなくても保護されます。
  2. × 土地の仮装譲受人がその土地上に建物を建築してこれを他人に賃貸した場合、その建物賃借人は、仮装譲渡された土地については法律上の利害関係を有するものとは認められません。したがって、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができます。
  3. 〇 AB間の売買契約が無効であったとき、それを前提として甲土地を差し押さえた債権者Cは、甲土地の競売による債権回収という権利を失うことになります。したがって、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができません。
  4. 〇  第三者から不動産を譲り受けた転得者は不実の登記につき善意である限り、第三者として保護されます。したがって、Aは、善意の転得者であるDにAB間の売買契約の無効を主張できません。

 

 

  

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契約がまだ結ばれていない段階であれば一方的に交渉を打ち切っても大丈夫?

Q.契約がまだ結ばれていない段階であれば一方的に交渉を打ち切っても大丈夫?

 

A.その打ち切りが信義に反するような場合は損害賠償責任を負う場合があります。

 

平成28年度宅建試験に出題された問題をピックアップして解説して行きます。

 


宅建試験に合格する民法の学習

今週から、例年宅建試験で14問程度出題されている民法及び関連法令を過去問等を活用しながら説明します。試験勉強というスタンスで法律を学ぶと、つい問題集を利用して末端の知識の暗記に終始しがちです。試験直前期はもちろんそれも重要なのですが、それだけでは法的思考能力(リーガルマインド)を問うような近年の難問には太刀打ちできません。試験まで半年ある今だからこそできるしっかりと根を下ろして頑丈な土台を作る学習が、結局は早く合格できる勉強となります。少しだけ理屈っぽくなりますが、お付き合いください。

 

民法の基本原則とは?

民法1条には、1項に「公共の福祉」、2項に「信義則」、3項に「権利濫用禁止」が定められています。土台となる法律には、このようにとても曖昧な条文があったりします。これを一般規定等と呼び、その法律を使う際の指導原則となります。ちなみに、この規定は、第二次大戦後の昭和22年の改正で追加されたものです。日本国憲法12条の公共の福祉の規定や同29条の私有財産に関する規定に対応して定められました。

 

信義則とは?

信義則とは、契約等の関係に入った者は、相互に相手方の信頼を裏切らないように誠実に行動しなければならない原則をいいます。ヨーロッパでこの規定が生まれた当初は契約関係に入った後のルールでしたが、その後拡張され、現在は契約関係にない関係であっても適用されるようになっています。また、義務の履行だけでなく、権利の主張の段階でも適用されます。この信義則はあらゆる場面であらゆる形で現れます。たとえば、身近な不動産取引の場面では、建物を無断転貸した場合における契約解除の制約原理が信義則から生まれた判例理論と言われています。つまり、無断転貸したという事実だけでは賃貸借契約は解除できず、その無断転貸が契約当事者間の信頼関係を破綻する程度の状態に陥っていてはじめて契約の解除ができるとする理論です。これは民法の条文には定めがありません。信義則という一般規定の解釈から生まれるものと言われています。

 

権利の濫用とは?

外形上は正当な権利行使のように見えても、具体的実質的見ると権利の社会性に反する場合は、効力を持たないとする理論です。元々は所有権等の物権的な関係における制約原理で、債権の行使や履行を制約する原理が信義則であるとする見解が有力でした。しかし、現在の通説・判例は両者を分ける実益の乏しさから、重複しても構わないとしています。たとえば、判例は時効が完成した後に弁済し、後に消滅時効を主張し弁済した金銭の返還請求することは信義則違反にも権利濫用にもあたると判断するものが少なくありません。

 

学習ポイント

信義則と権利濫用については判例の出題しかありません。判例は事実と争点と判旨の3点でまとめましょう。

 

(過去問にチャレンジ!)

【問 題】 次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,正しいものはどれか。(平成18年問1)

  1. 契約締結交渉中の一方の当事者が契約交渉を打ち切ったとしても,契約締結に至っていない契約準備段階である以上,損害賠償責任が発生することはない。
  2. 民法第1条第2項が規定する信義誠実の原則は,契約解釈の際の基準であり,信義誠実の原則に反しても,権利の行使や義務の履行そのものは制約を受けない。
  3. 時効は,一定時間の経過という客観的事実によって発生するので,消滅時効の援用が権利の濫用となることはない。
  4. 所有権に基づく妨害排除請求が権利の濫用となる場合には,妨害排除請求が認められることはない。
正解:4
  1. ×相手方が,契約が成立することは間違いないと考えて成立締結に備えて準備をしている場合に,こちらから一方的に契約しないと通告したようなときに,相手方に損害が生じれば,契約締結上の過失責任として,損害賠償義務を負うことがあります(信義則 最判昭和59年9月18日)。
  2. × 債務などの義務の履行や権利の行使には,信義則が適用され,制約を受けます。義務の履行や権利の行使には,相互の信頼関係が基本になるからです。
  3. × 当事者は時効を援用することができます。しかし,時効が完成した後に,債務者がそれを知らずに債務の承認をしたような場合において,債務者が後に時効が完成していたことに気づき,あらためて時効を援用することは,信義則違反にも権利濫用にもなる可能性がある(最大判昭和41.4.20)。
  4. ○ 所有権が侵害されてもこれによる損失が軽微であり,また,所有権を侵害している状況をなくすことが著しく困難かつ莫大な費用を要するような場合は,その除去を求めることが権利の濫用にあたるとする判例があります(大判昭和10年10月5日)。そして,所有権に基づく妨害排除請求が権利の濫用となる場合には,妨害排除請求が認められることはありません。

 

  

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