田中嵩二の宅建士&賃貸管理士試験ブログ

宅建士試験&賃貸不動産経営管理士試験の受験に役立つ情報を提供します。

亡くなった方の普通預金債権は遺産分割の対象となるの?

Q.亡くなった方の普通預金債権は遺産分割の対象となるの?

 

A.遺産分割の対象となります。

 

平成28年度宅建試験に出題された問題をピックアップして解説して行きます。

 

 

亡くなられた方の財産は誰のもの?

どんなに財産を築いても残念ながら墓場には持っていくことはできません。法的にも、民法上の権利や義務は生まれた時から死ぬときまでしか享有できません。遺された財産の行方については、国によって時代によって異なりますが、現在の日本の制度では、配偶者と一定の血族に引き継がれる仕組みになっています。これを相続といいます。相続とは、相続される人(被相続人)の財産をその者の死後に、法律が特定の者(相続人)に当然に受け継がせる制度をいいます。法律の規定に基づいて生じる相続を法定相続、死亡者の最終意思に基づくものを遺言による相続といいます。
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します。父親が死亡した場合、相続人である息子が父親の立場を受け継ぐというようなイメージです。しかし、被相続人の一身に専属した権利(一身専属権)などは承継されません。たとえば、委任者または受任者たる地位や生活保護受給権、扶養請求権、離婚請求権、慰謝料請求権などは相続しません。また、複数の相続人がいる場合、相続財産は相続人全員の共有になります。各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します。つまり、共有における持分は相続分と同じとなります。

 

共同相続された普通預金債権等は遺産分割の対象となるの?

前記の通り、相続財産は共同相続人の共有となります。しかし、この共有については古くからその法的性質について解釈上の争いがありました。すなわち、各共同相続人は相続財産を構成する個々の財産上に物権的な持分権を有しこの持分権を遺産分割前も単独で自由に処分できるとする見解(共有説)と、各共同相続人は相続財産全体に対し抽象的な持分を有しこの相続分の処分はできるが相続財産を構成する個別財産上には物権的な持分権はないとされ、また、債権債務も遺産分割までは不可分的に全相続人に帰属し、債務については相続財産がまず責任を負うとする見解(合有説)の対立です。預金債権等の場合、前者からは、遺産分割を待たずに各共同相続人の相続分に応じて当然に分割され、後者からは、分割されずに相続人全員に合有的に帰属し(遺産分割の対象となる)、全員が共同しなければ債務者に請求できないことになります。
これまでの判例は共有説を採用していましたが、2016年12月19日の最高裁大法廷による決定で判例法理が変更され、共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となると解釈し、合有説を採用するに至りました。同決定では、預金債権は金銭と同様に遺産分割の調整に活用し得る性質があり、金銭と同じく遺産分割の対象とすべきであるとか、預金口座は給料等の入金や光熱費の引き落とし等その額は解約するまで確定しないことから遺産分割前に自らの相続分について払い戻しが可能であるとすると計算が煩雑になり調整も困難となる等を、判例変更の理由としています。

 

学習のポイント

相続を理解するポイントは次の流れをしっかりと覚えることです。
①相続人の確定、②相続の放棄・承認の確認、③相続分の計算(遺産分割協議)、④土地や建物などの不動産についての登記手続


(過去問にチャレンジ!)

【問 題】 Aが死亡し、それぞれ3分の1の相続分を持つAの子B、C及びD(他に相続人はいない。 )が、全員、単純承認し、これを共同相続した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。(2003年度問12)
1 相続財産である土地につき、遺産分割協議前に、Bが、CとDの同意なくB名義への所有権移転登記をし、これを第三者に譲渡し、所有権移転登記をしても、CとDは、自己の持分を登記なくして、その第三者に対抗できる。
2 相続財産である土地につき、B、C及びDが持分各3分の1の共有相続登記をした後、遺産分割協議によりBが単独所有権を取得した場合、その後にCが登記上の持分3分の1を第三者に譲渡し、所有権移転登記をしても、Bは、単独所有権を登記なくして、その第三者に対抗できる。
3 相続財産である預金返還請求権などの金銭債権は、遺産分割協議が成立するまでは、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割され、遺産分割の対象とならない。
4 Bが相続開始時に金銭を相続財産として保管している場合、CとDは、遺産分割協議の成立前でも、自己の相続分に相当する金銭を支払うよう請求できる。


正解:1


1○ CとDは登記なくして自己の持分の所有権を第三者に対抗できます。
2× 相続人Bは、遺産分割協議で、土地全部の所有権を取得することになりました。ただ、登記は法定相続分である3分の1の共有相続登記のままです。遺産分割により土地すべてを自分の物にしたと第三者にも主張できるようにするには、その旨の登記をしておかなければなりません。
3× 遺産分割の対象となります。
4× 相続人は、遺産分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはできません。

 

 

 

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契約前の詐欺的な勧誘行為は不法行為?契約違反?

 

Q.契約前の詐欺的な勧誘行為は不法行為?契約違反?

 

A.不法行為になります。

 

平成28年度宅建試験に出題された問題をピックアップして解説して行きます。

 

 

不法行為って何?

不法行為とは、他人の権利・利益を違法に侵害して損害を加える行為をいいます。不法行為が行われることによって、金銭賠償を請求する債権の発生が認められます。不法行為も契約と同じく、債権発生原因の1つということです。その趣旨は被害者の救済(損害の補填)と将来の不法行為の抑止です。

 

契約違反による賠償と不法行為による賠償は違うの?

民法には、損害賠償請求等の債権が生じるきっかけとして、契約、不法行為事務管理、不当利得の4つを定めています。それぞれに、要件が定められていて、要件となる事実を証明できれば、賠償請求できる仕組みになっています。条文上は、明確に区別されていますが、 実際の運用では、契約違反でもあり、不法行為でもあることが多く、訴える側が収集した証拠等を吟味して、どの条文の理屈で損害賠償請求等をするかを判断します。ただ、その判断が微妙な案件もあります。契約前の商品の説明(勧誘)に虚偽があるような場合です。平成23年4月22日の最高裁判所で扱った事案では、債務超過で実質的に破綻状態にあった信用組合の職員が、顧客にそのことを隠して出資させ、その後すぐに倒産し出資金の払い戻しができなくなった場合は、契約違反として損害賠償することはできず、不法行為として損害賠償請求できるのみであると判断しました。
宅建士試験に必要な範囲で、契約違反(債務不履行)と不法行為を表にまとめました。しっかりと暗記しておきましょう。

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学習のポイント

損害賠償請求等を発生させる原因には契約・不法行為事務管理・不当利得の4つがある。契約前の勧誘行為は不法行為責任となる。

 

(過去問にチャレンジ!)

【問 題】 次の1から4までの記述のうち、民法の規定及び下記判決文によれば、誤っているものはどれか。(2016年度問9)


(判決文)

契約の一方当事者が、当該契約の締結に先立ち、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には、上記一方当事者は、相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき、不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別、当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはないというべきである。(中略)上記のような場合の損害賠償請求権は不法行為により発生したものである(略)。


1 信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった売主に対する買主の損害賠償請求権は、買主が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効により消滅する。
2 信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった売主に対する買主の損害賠償請求権は、損害を被っていることを買主が知らない場合でも、売買契約から10年間行使しないときは、時効により消滅する。
3 買主に対して債権を有している売主は、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった売主に対する買主の損害賠債請求権を受働債権とする相殺をもって、買主に対抗することができない。
4 売主が信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった場合、買主は、売主に対して、この説明義務違反を理由に、売買契約上の債務不履行買任を追及することはできない。


解答:2


1〇 判決文は、売主が信義則上の説明義務違反に違反して、買主に損害を与えた本件事案においては、買主は売主に対し、不法行為による損害賠償の請求権(民法709条)を行使することができると判示しています。上記損害賠償請求権は、被害者が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効により消滅します(民法724条前段)。
2× 判決文は、本件事案においては、買主は売主に対し、契約上の債務の不履行による損害賠償責任を問うことはできず、不法行為による損害賠償の請求権(民法709条)を行使することができると判示しています。したがって、その時効は、被害者が損害及び加害者を知った時から3年間、行為の時から20年間で消滅します(民法724条前段)。
3〇 判決文は、本件事案においては、売主は買主に対し、不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)を負うと判示しています。債務が不法行為によって生じたときは、その債務者(加害者)は、相殺をもって債権者(被害者側)に対抗することができません(民法509条)。したがって、売主は買主に対し、これを受働債権として売主が買主に対して有する債権と相殺することはできません(民法509条)。
4〇 判決文は、本件事案においては、買主は売主に対し、契約上の債務の不履行による損害賠償責任を問うことはできないと判示しています。したがって、買主は売主に対し、売買契約上の責任を追及することはできません(最判平成23年4月22日)。

 

  

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