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不動産賃借権の物権化

不動産賃借権の物権化


 Aは、自己所有の土地をBに賃貸した。Bは、この土地上に建物を建てて使用していたが、土地賃借権の登記(民法605条)も、建物の登記も(借地借家法10条)も備えていない。その後、Aは、この土地をCに売却して引き渡した。この場合におけるBC間の法律関係如何。

 


1 ポイント整理

 

 「売買は賃貸借を破る」という有名な法格言がある。これは債権と物権の関係を表したあまりにも有名な原則である。

 この法格言から言えば、賃貸借契約から生ずる借地権は単なる債権であり、賃貸人に対して契約内容に基づく請求権を行使できるだけにとどまるのが原則である。しかし、本件におけるような不動産賃借権の場合は、その内容は土地を使用するという点において物権である地上権に似ている。さらには、不動産賃借権は、賃借人の生活の本拠を根拠付けるものでもあり、その他のたとえば金銭債権などとはその性質を異にする。また、不動産賃借人は、不動産所有者である賃貸人に比して経済的には弱者であることが多い。その点からも、経済的弱者保護という憲法で言えば社会国家的公共の福祉に根をもったものともいえよう。つまり、最低限の文化的な生活を営む権利という社会権を実現するために、賃貸人の財産権という経済的自由が、精神的自由権に比べてより多くの制約が許されるということである。そこで市民平等を前提とした民法を弱者救済という観点から修正を加え、賃貸人の財産権を大幅に制限した借地借家法が存在する。民法の世界では、このような傾向を賃借権の物権化傾向と呼ぶこともある。

 

2 BのCに対する権利

 

(1) 借地権の対抗力

 

 賃貸人が目的物を第三者に譲渡した場合に、目的物の新所有者と賃借人との関係が問題となる。この場合、賃借権の対抗力は原則認められない。しかし、民法605条は、不動産賃借権の登記に対抗力を認めている。ただし、この民法605条の登記は、共同申請の原則から賃借人と賃貸人が共同で登記申請しなければならないことになっている。したがって、賃貸人が協力しないときは賃借人に登記請求権がなければ登記できない。ところが、判例(大判大正10年7月11日)は、賃借権が債権であることを理由として、冬季請求権を否定したことにより、賃借権においては、賃借人は自ら対抗要件を備えることはできなくなった。よって、賃貸人は土地を第三者に売却することで簡単に借地人を追い出すことができた(このような状況を当時地震売買と呼んでいた)。「売買は賃借権を破る」という法格言がそのままあてはまっていた。

 賃借人のこのような窮状を保護するために、いくつかの特別法が制定された。まず明治42年に「建物保護法」、大正10年に「借地法」「借家法」、平成3年に「借地借家法」などが制定され、現在に至る。

 現行の借地借家法10条は、借地上に登記した建物を所有することによって、借地権を第三者に対抗できる旨を定める。そして、この建物登記は、土地所有者の協力なしに、借地権者が自らの意思で単独で行なうことができる。これによって、「売買は賃借権を破らず」という原則に変更したといえる。

 ちなみに、この建物登記は、借地人自身の名義による登記でなければならないとするのが判例である(最判昭和47年6月22日)。他人名義の登記は実体と異なる登記であり虚偽表示となることから法的に無効となり、取引安全の要請からも、他人名義の登記に対抗力を認められないと判示している。これは大きな論点であるが、本課題には直接関係ないのでここで展開する必要はないと思われる。しかし、触れておくことで知っていることをアピールできる。

 では、民法605条の借地権の登記も、借地借家法10条の借地上の建物の登記もない場合には、借地権者は第三者にあたる土地の新所有者にまったく対抗できないのか。

 この点、判例最判昭和50年2月13日)は、「建物保護ニ関スル法律一条(現在この法律は廃止されたが、この規定は後の借地借家法に追加されているので、この判例もそのまま引き継がれていると思われる)が、建物の所有を目的とする土地の借地権者(地上権者及び賃借人を含む。)がその土地の上に登記した建物を所有するときは、当該借地権(地上権及び賃借権を含む。)につき登記がなくても、その借地権を第三者に対抗することができる旨を定め、借地権者を保護しているのは、当該土地の取引をなす者は、地上建物の登記名義により、その名義者が地上に建物を所有する権原として借地権を有することを推知しうるからであり、この点において、借地権者の土地利用の保護の要請と、第三者の取引安全の保護の要請との調和をはかろうとしているものである。この法意に照らせば、借地権のある土地の上の建物についてなさるべき登記は権利の登記にかぎられることなく、借地権者が自己を所有者と記載した表示の登記のある建物を所有する場合もまた同条にいう「登記シタル建物ヲ有スルトキ」にあたり、当該借地権は対抗力を有するものと解するのが相当である。」旨判示し、対抗要件である建物登記は権利の登記のみならず表示の登記にまで拡張されている。

 しかも、この建物の表示の登記は、権利の登記(建物を新築したときに行なう登記を特に「保存登記」という)がその名の通り登記権利者の権利であり登記するか否かは権利者の自由であるのに対して、新築後1ヶ月以内に登記所に申請しなければならないとして(不動産登記法47条1項)、義務化されている。建物の表示の登記とは、建物の現況を明らかにするために、建物登記簿の表題部に、建物の所在地・地番・家屋番号・種類・構造・床面積等を記載することによって行なわれるものである。さらにこの表示の登記は、所有者の申請がなくても、登記官(公務員)が職権で登記することができる(同法28条)。

 本事案は、借地人Bに民法605条の登記も借地借家法10条の建物登記もないとしている。したがって、特別法の要件にあてはまらない場合は原則に戻るという法解釈の大原則に従って、借地権に対抗力はない、というのが論理的な帰結となる。しかし、さらにここから借地借家法の趣旨からの解釈(目的論的解釈)を行なって、上記判例の如く、Bに建物の表示の登記があれば借地権に対抗力を認めるべきであろう。表示の登記は法律上の義務であり登記官にもする権限があるので、本事案の場合もそれが当然にあると思われるが、一応表示の登記がなされている場合と、そうでない場合で場合わけをした方がよい。
 さらに、たとえ表示の登記もなく借地権者Bに対抗力がなかったとしても、Cからの土地明渡請求が権利濫用(民法1条)にあたる場合は、CからBへの権利行使自体が無効となるというところまで論じた方が無難である。ちなみに、この権利濫用についても判例がある(最判昭和43年9月3日)。

 

(2) 賃借権侵害を理由とした損害賠償請求

 

 債権総論の重要論点のひとつとして、第三者の債権侵害と不法行為の成立というものがある。本事案の場合、AB間には賃貸借契約があり、賃借人Bは賃貸人Aに対して、契約内容に従って土地を使用させるよう請求する債権を有している。この債権が第三者Cによって侵害されたとして、Cに対して不法行為(709条)に基づく損害賠償請求権を行使できるかという形で問題となる。

 債権は特定人に対し特定の行為を請求するという相対的な権利であり、物権のように直接性・排他性を有しないのが原則である。この原則論を貫徹すれば、債権者Bは債務者A以外の第三者Cに対しては何ら請求できないという結果となる。

 しかし、債権も財産権のひとつであり、他人から侵されることはないという不可侵性を有している。したがって、現在は、債権者にも第三者による侵害に対する法的保護を認めるべきであるとするのが通説となっている。

 ただ、不法行為を認めるべきであるとした上で、いかなる要件でそれを行使できるかを考える必要がある。

 

《債権侵害を理由とした不法行為の要件》

 

 不法行為の要件は、①故意または過失、②責任能力、③権利侵害、④損害の発生、⑤行為と損害との間の因果関係、である。債権侵害の場合は、③の権利侵害の要件を満たすか否かで問題となる。
 「権利を侵害」(709条)とは、加害行為の違法性を意味するとするのが判例・通説である。

 

《債権の帰属自体を侵害した場合》

 

 たとえば、第三者が債権者の作成した受取証書を窃取して弁済を受けた場合などがこれにあたる。債権者は、第三者に対して債権侵害を理由に第三者に対して損害賠償請求できる。

 

《債権の目的である給付を侵害して債権を消滅させた場合》

 

 たとえば、第三者が、債権の目的である立木を、自分の物と偽って他人に売却し、その他人が伐採してしまった場合や、歌手の出演を妨害して履行不能とさせた場合などがこれにあたる。

 

《債権の目的である給付を侵害するが債権は消滅しない場合》

 

 たとえば、所有者から立木を売却するよう委任された者が、買主の代理人と共謀して、実際よりも低額で売れたようにみせかけ、その差額を横領した場合や、不動産二重売買の事例における背信的悪意者などがこれにあたる。

 

《不動産賃借権と債権侵害について》

 

 土地賃借権の場合、この債権侵害に基づく不法行為請求が問題となる場面は非常に限られているものと思われる。

 そもそも、たとえその土地を購入した新所有者(本事案ではC)が故意・過失によってBの賃借権という債権を妨害する意図があったとしても、借地人Bが対抗力を備えていた場合は、CはBに明渡請求はできないのであるから、Bに法的な損害が発生しないからである。不法行為の要件である損害の発生を満たすことができない。

 したがって、土地賃借権の場合に、債権侵害が問題となる場面は、借地人Bに対抗力がなかったときだけである。ただ、Cの明渡請求が権利濫用にあたる場合はそもそも明渡請求自体が無効となるので、Cは明け渡しに応じる必要はなく法的な損害はないので、不法行為を観念できない。したがって、Bに対抗力がなく、Cに権利濫用がない場合で、Bが土地の明け渡しに応じなければならないときに、この賃借権侵害に基づく損害賠償請求が問題となるものと考える。

 しかし、不法行為としてCが故意を有する場合は、通常権利濫用といえる場合がほとんどであると想定できるので、Cが過失によってBの賃借権(もちろん対抗力がないことが前提)を侵害した場合に限られるものと思われる。この点、取引の安全(Cなどが土地を購入する点)と静的安全(借地権者Bの保護)の調和を図る必要があるが、Bが権利の登記のみならず表示の登記をもしていない場合にまでBを保護する必要があるのかは検討の余地がある。たとえば、借地権を設定し、建物を建築中に、Cが土地を購入した場合(過失があることが前提)のように、借地人Bを保護する必要性が高い場合などに限って、債権侵害に基づく損害賠償請求を認めてもよいと思われる。

 

(3) 背信的悪意者法理の援用

 

 本事案におけるBの借地権と、Cの土地所有権は、対抗関係となるか。

 この点、判例最判昭和49年3月19日)は、対抗関係となるとしている。ただ、土地所有権と土地賃借権は両立しうる権利であり、不動産の二重売買のように本来的な意味での対抗関係にはならない。したがって、この場合のCの対抗要件は、賃貸人としての地位を主張するための対抗要件と読みかえて考える必要がある。判例は、賃貸人としての地位を土地賃借人に主張して賃料請求をする場合には、土地所有権の登記を備えなければならないとしている。

 これを踏まえて、これに背信的悪意者排除論をあてはめて考えるとどうなるかを検討する。

 

《背信的悪意者法理》

 

 判例は、不動産取引において、自由競争の範囲を逸脱すような第三者を民法177条の「第三者」から外している。通常、民法177条の第三者には善意・悪意などの主観的事情を要件とされない。その理由は取引安全の保護であるが、その域を超えるような取引は保護する必要がないとして、背信的悪意者排除論を判例法理として打ち立てている。

 

 Cは背信的悪意者といえるか。

 

 民法177条は自由競争の範囲内においては、当事者の主観を問題にせず、登記の有無によって画一的に物権の帰属を決しようとしたものであるが、このような自由競争の範囲から逸脱するような背信的悪意者は信義則上「第三者」にあたらないとするのが判例最判昭和40年12月21日)である。

 しかし、果たしてBとCとの間にそのような関係を観念できるのであろうか。判例のいうように、土地の新所有者Cが賃貸人としての地位を主張するための要件として対抗要件が必要と考えた場合、「賃貸人としての地位」とある以上、所有者として借地人Bを追い出すということは前提となっていない。これは単に借地人Bが賃料(地代)の二重払いの危険を避けるために、新所有者Cに登記を求めたにすぎないと考えるべきである(対抗要件ではなく保護要件としての登記)。

 であるから、背信的悪意者の理論は、本件においては賃料請求の場面でしか問題とならない(所有権者として明渡請求しうる地位としての対抗要件ならば、背信的悪意者は、前述した権利濫用・債権侵害の議論で十分であるから)。

 

(4) 敷金返還請求権

 

 賃貸借契約は、諾成契約であるから当事者の合意だけで成立する(民法601条)。しかし、実際は不動産賃貸借契約に際して、金銭の授受が行われるのが通常である。実務では、敷金、権利金、保証金、更新料、礼金などいろいろな名前で授受する金額を設定している。問題となるのは、敷金である。

 敷金とは、契約期間中に賃借人が賃貸人に負担する賃料債務その他一切の債務の担保のために差し入れた金銭であり、契約終了後に賃借人の債務を控除して残額が返還されるものをいう。

 その法的性質は、要物契約であり賃貸借契約に付随する別個の契約である。一種の停止条件つき返還債務を伴う金銭所有権の移転である。

 問題は、本件におけるBが、借地権を対抗できる場合は誰に対して敷金返還請求権を行使できるのか、同じく、借地権を対抗できずにCからの明け渡しに応じなければならない場合は、誰に敷金返還請求を行使できるのかである。

 敷金とは、前述のとおり、賃借人の賃貸借契約上の債務の履行を担保するために認められるものである。そして明け渡しまでのすべての賃借人の債務を担保するという点から考えれば、明け渡した後にはじめて具体的な敷金返還請求権が発生するとすべきである(最判昭和48年2月2日)。

 敷金の返還と賃借物の明渡は同時履行(民法533条)の関係に立つか。

 敷金返還請求権の発生時期が、目的物の明渡後なのであるから、そもそも同時履行の関係にない。したがって、明渡時説を採った場合は、賃借人は敷金の返還を理由に土地の明け渡しを拒むことはできない。

 

 敷金返還請求権は誰に行使するのか。

 

 このように、明け渡しによってはじめて敷金返還請求権が発生するとして、賃貸借契約の存続中に、賃貸人の地位が移転した場合に、敷金返還債務はどうなるのであろうか。

 この場合には、賃貸人と地位とともに敷金返還債務も当然に承継されると解されている。

 ただし、その承継されるときの返還債務の額は、旧賃貸人に対する債務を差し引いた残額が移転すると解されている。これは、敷金というものは、賃貸人にとってみれば一種の担保の役割を果たすものであるから、賃貸人の地位に随伴して移転すると考えるのである。

 したがって、Bの借地権に対抗力があり、Cが新賃貸人となった場合には、BはCに対して明け渡しの後に敷金返還請求ができるということになる。ただ、当然であるが、契約時に敷金を支払っていた場合を前提とする。

 それに対して、Bの借地権に対抗力がなかった場合でCからの土地明渡請求に応じなければならない場合にはどうか。

 この場合はそもそもCがAの賃貸人としての地位を移転していない。つまり、賃貸借契約に基づく権利義務関係がBC間に移転していない。したがって、Bは賃貸借契約に基づく権利関係のひとつである敷金返還請求権をCに行使することはできないと解する。この場合は原則として旧賃貸人Aに対して敷金返還請求をなしうると解する。

 

(5) 建物買取請求権(借地借家法13条)

 

 借地借家法13条1項は、「借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に付随させた物をじかで買い取るべきことを請求することができる。」と定める。

 原則論から言えば、借地契約期間が満了し、借地契約の更新もない場合、借地権者は土地を利用する権利がなくなるので、その後の土地使用は不法占拠となる。したがって、本来ならば土地の所有者から明け渡しを求められたら、借地権者は建物を取り壊し、更地にして土地を明け渡さなければならない。

 しかし、まだ耐用年数に達していない建物を取り壊すことは、国民経済的損失となり、また、借地権者は建物を建設するために投下した資本(お金)を回収できなくなる。そこで、これらの問題を解決するため借地借家法は、借地権者に建物買取請求権を保障した。

 本件において、Bの借地権に対抗力がある場合は、なんら問題は起きない。新賃貸人であるCに対して、更新がなかった場合に建物買取請求権を行使できることは条文上明らかである。
 しかし、Bの借地権に対抗力がなかった場合で、Cから土地の明け渡しを請求された場合に、Bは建物買取請求権をそもそも行使できるのか、できる場合は誰に対して行なえばよいのかが問題となる。

 借地借家法13条の文言から、建物買取請求権は、借地権設定者に対して借地契約の更新がない場合に、行使できると解される。

 本件においてCは土地所有者ではあるが、Bの借地権に対抗力がなく、特にAから賃貸人としての地位を受け継いだ場合でもなければ、借地借家法13条の「借地権設定者」と解釈することには無理がある。

 もちろん、この場合でもBはAに対して債務不履行履行不能)を理由に損害賠償請求はできるが、本件のような場合Aにはかなり悪意であると想定できるので、実際にはAに損害賠償請求できるといったところで絵に描いた餅となる。

 やはりBの立場を考えれば、Cに対して明け渡し請求に応じるとしても建物買取請求権を行使できる場面を残しておくことは、借地借家法の趣旨に合致すると思われる。

 そこで、その法的根拠をどこに求めるべきかが問題となる。

 思うに、民法94条2項を類推適用すべきであると解する。

 AB間の賃貸借契約における外観と実体の齟齬に着目する。すなわち、AB間では借地契約が成立しており、Bに借地権が存在することは疑い得ない。しかし、登記簿上は、土地登記簿に借地権の登記もなければ、建物登記もなく、表示の登記もされていないのであり、実体と外観に齟齬があるといえる(虚偽の外観の存在)

 次に、94条2項類推適用の要件における真の権利者の帰責性についてである。本件Bに帰責性があるといえる場合はどのような場合か。建物の表示の登記にまで借地権の対抗力を認める判例から言えば、その表示の登記(法律上の義務)をあえて行なわなかった場合などがあれば、Bの帰責性を観念できるのではないかと思われる。たとえば、建物を建築すれば固定資産税を支払わなければならないが、脱税目的で、建築基準法上の建築確認申請も不動産登記法上の登記義務も果たしていなかった場面などが考えられる。

 3つ目の要件として、第三者の要保護性である。判例は、第三者の善意(場合によっては無過失)を要求する。

 本件においてCがAから土地を購入する場合に、借地権者がいることを知らなかった場合(または知らなかった場合に過失がなかった場合)にそれを認めることができるであろうか。

 これは認めてよいと思われる。たとえば、AがCに土地を売却する際に、登記情報を閲覧させ、対抗力のある借地権などないことを説明し、現地に赴いたときに実際にたっている建物(Bの所有物)を、自分の建物と騙して「君に土地を明け渡すときは建物を取り壊した上で更地にします」などと説明したような場合は、Cは保護すべき状況にあったといえよう。

 また仮にBがAから土地を賃借している事実をCが知っていた場合でも、借地権の登記がなく建物の登記もその表示の登記もない場合は、Cが対抗力のないBに土地明渡請求ができると期待する権利も、法における予測可能性の見地から保護に値すると解すべきである。しかし、建物買取請求を行使されないことまでも期待しうるものとみてよいのだろうか。この点は、借地借家法の趣旨との調整が必要となる。

 思うに、CのようにAから土地を購入する者が、現地に赴き現に建物が建ち使用されている状況を見れば、土地明渡の際に建物収去の問題または買取の問題が生ずることは一般人の見地から想定の範囲内と思われる。であるならば、借地借家法における借地人の保護の観点から、建物買取請求権を行使されないことについて特段の事情がある場合を除き、買取に応じるべき義務があるとみるべきである。特段の事情とは、たとえば、本件におけるAがCを積極的に騙したような場合などが考えられる(Bは建物買取請求権を行使しないとの約束があるとか、虚偽の定期借地権設定契約書を提示されたなど)。

 

 建物買取請求権と土地明渡との同時履行の抗弁権・留置権

 

 上記のようにBに建物買取請求権が認められた場合、BはCが建物の代金を支払うまで、同時履行の抗弁権(533条)、留置権(295条)を行使できるのであろうか。

 建物買取請求権が行使された場合、土地所有者であるCと、借地権者Bとの間に建物売買契約が成立し、借地権者Bが土地所有者Cに対し建物代金支払の請求権を有することになる。これに対して、土地所有者Cは借地権者Bに対し建物引渡および移転登記請求権をもつことになる。これらの債権が同時履行の関係であることは当然であるが、それと同時に、土地所有者Cは借地権者Bに対し土地の明け渡しを請求することができるわけであるから、この土地の明け渡しと建物代金の支払とが同時履行の関係に立つかが問題となる。

 そもそも、建物代金は、あくまでも建物の代金なのであって、土地とは関係ないはずである。したがって、形式的に見れば、建物代金と土地の明け渡しは同時履行の関係には立たないが、もしこれを否定してしまうと、借地権者Bはまず土地を明け渡し、それから「建物の代金を払ってくれるまで建物は渡さないぞ」と頑張ることになってしまう。しかし、土地と建物は法律上別個の不動産ではあるが、建物だけをヤドカリみたいに持ち歩くわけにはいかないので、事実上建物を明け渡さずに土地だけを明け渡すことは不可能なのである。つまり、ここで土地の明け渡しにも同時履行の抗弁権を認めないと、建物買取請求権を認めた意味がなくなってしまうのである。

 そこで、判例は、形式的には同時履行の関係には立たないはずの建物代金の支払と土地の明け渡しにおいても同時履行の関係を認めている(最判昭和35年9月20日)。この場合には、留置権も認められると解されている。

 なお、とのときにBが土地を占有していることは同時履行の抗弁権がある以上違法ではないが、権原なくして(借地権などがないという意味)占有していることになるので、地代相当分の不当な利得を得ていることになり、その分はCに対して不当利得による返還請求に応じなければならない。

 

3 CのBに対する権利

 

 CのBに対する権利は、CのBに対する義務に対応する。したがって、以下簡単に説明する。

 

(1) 建物収去土地明渡請求権(物権的請求権)

 

 Bの借地権に対抗力が認められなかった場合は、物権的請求権の効力として、Bに建物収去土地明渡請求をすることができる。

 ただし、それが権利濫用となる場合は認められず、仮に認められた場合でも債権侵害となる場合は、不法行為を構成し、損害賠償義務を負い、さらにBからの建物買取請求権を行使された場合は、建物代金をBに支払う義務が生ずる。

 

(2) 不法行為に基づく損害賠償請求権

 

 Bの借地権に対抗力が認められなかった場合で、Cが適法に土地明渡請求を行使したにもかかわらず、Bが土地を明け渡さなかった場合は、所有権侵害という不法行為に基づく損害賠償請求権を取得する。

 

(3) 不当利得返還請求権

 

 Bの借地権に対抗力が認められなかった場合で、Cが土地明渡請求を行使したにもかかわらず、Bが土地を明け渡さなかった場合、Bは他人の土地を使用したという利得が観念できるので、その利得をCに返還する義務が生ずる。これは、Bに同時履行の抗弁権、留置権など明け渡しを拒む正当な理由があった場合にも生ずる。

 

(4) 賃料(地代)請求権

 

 Bの借地権に対抗力が認められた場合は、BはCを借地権設定者として借地権を行使しうる立場となる。そこで問題となるのは、Cはいかなる要件をもって、Bに賃貸人としての地位を主張できるかである。

 

 賃貸人たる地位の移転

 

 まず、Bが借地権の対抗力を有していない場合は、賃貸人たる地位もAからCに移転しない。これは当然である。

 次に、Bが借地権の対抗力を備えている場合はどうであろうか。この場合には賃貸人たる地位は当然に移転すると解されている(最判平成11年3月25日)。すなわち、譲受人は賃借権を対抗される立場にあるわけであるから、そのことを覚悟して目的物を譲り受けている以上、賃貸人たる地位を移転させ、少なくとも賃料くらいは請求したいと期待していると思われるからである。

 ではこのように賃貸人たる地位が移転するとして、賃借人の承諾は必要であろうか。すなわち、賃貸人たる地位の移転は、単に賃料等の賃貸人としての権利の移転だけではなく、目的物を使用収益させる義務の移転という側面も有するため、この点についての債権者である賃借人の承諾はいらないのかが問題となる。

 この点、賃借人の承諾は、特段の事情のない限り不要と解すべきである。というのは、賃貸人の使用収益させる債務は目的物の所有者であればなしうる没個性的な債務であり(誰がやってもかわらないという意味)、賃借人にとっては所有者が誰であるかは重要な問題とはいえないからである。また、賃借人にとってもそのまま使用収益できる方が有利ともいえる。

 判例(大判大正4年4月24日)も、賃借権が対抗力を備えていない事案において、不要とするものがある。借地権が対抗力を備えている場合も同様に解することができよう。


 賃貸人たる地位の移転と借地料(地代)請求権

 

 新所有者Cが賃貸人たる地位を主張するには、土地所有権の登記が必要かが問題となる。

 この点、判例は必要とする(最判昭和49年3月19日)。なお、この場合は、所有権を主張するのではなく、賃貸人たる地位を主張するにすぎないが、その前提として所有権を主張せざるをえないので、民法177条の所有権の登記が必要と解されるわけである。実質的な理由としては、二重払いを回避し、賃料支払の相手などを明確にするために必要であると解されている。

 

以上。

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