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田中謙次の宅建試験ブログ

宅建試験の受験に役立つ情報を提供します。

時効制度の存在理由

民法に関する論文

時効制度の存在理由


1.総論

 

 時効は,一定の「事実状態」が存続する場合に,たとえ実際の権利関係と異なっていてもそのまま権利関係として認める制度です。

 時効には一定の「事実状態」の結果,真実の権利者とみなす「取得時効」と一定の「事実状態」の結果,権利の消滅を認める消滅時効があります。


2.時効の存在理由(正当化根拠)

 

 時効の存在理由というのは,なぜ,債権者が権利を行使しないで放っておくと消滅してしまうのか(消滅時効・167条1項)。

 また,なぜ,他人の土地を占有し続けると所有権などを取得することになってしまうのか(取得時効・162条)ということに対する世間の人を納得させられるだけの理由ということです。

 

 第1に,長期にわたって継続している事実状態そのものを保護すべき社会の要求ということがあげられます。これは,その事実状態を前提として新たな法律関係が構築されていくことによります(法律関係の安定)。

 

 第2に,期間の経過による立証の困難を救済するということがあげられます。これは,債務を実際に弁済した債務者が,債権者から得た弁済受領書を10年も保管しておくことはまず考えられません。そうすると,時効制度がないと債権者からの貸金請求訴訟に敗訴することとなり,正義・公平に反します。

 

 第3に,債権者が実際に弁済を得ていない場合に,10年も放置することはあまり考えられません。そこで,「権利のうえに眠るものは保護しなくてよい」ということがあげられます。

 

 しかし,それぞれについては難点(批判)があります。

 

 第一の点については,時効は第三者保護のための要件を設けていない(したがって,取引安全のための制度とは直接いえないのではないか),第二の点については弁済していないものが保護を受けることを説明できない,第三の点については,親友だからという理由等であえて請求しなくても債務を消滅させられるのは,権利のうえに眠っているとはいえないのではないか等です。

 

 したがって,第一・第二・第三の理由がそれぞれを補強しあっていると考えるのがよいでしょう。このような考え方を『多元説』といいます。

 

 上の批判に対しては,目的と要件は別であるとか,第二の批判には,事実状態を尊重し,権利の上に眠る者を保護しなくてよいとか,第三の批判には,中断措置をとらないのは権利の上に眠っているといわれてもしょうがないとか反論が可能です。


3.時効学説

 

 旧民法は,時効を訴訟法的な制度と位置づけていました。

 

 現行法の時効が実体法上の制度であることを前提として,どのような性格に位置づけるかは争いがあります。これが時効学説といわれるものです。

 

 これは,条文が,一方で「其所有権を取得す」(162条),「消滅す」(167条)としているにもかかわらず,他方で「当事者の援用」(145条)がないと裁判上判決の基礎とできないとしていることをどのように調和的に解釈するかの問題といえます。

 

 まず,時効学説は,時効の存在理由のどれを重視するかでまず,訴訟法説と権利得喪説(実体法説と呼ぶ方が一般的です)に大きく分かれます。

 

権利得喪

 

時効の存在理由の第一の点である「法律関係の安定」を重視する説(または,第一と第三を重視する説)は,真の権利者が権利を失うのが時効制度であるとするのですから『時効は実体法上,権利義務の得喪(取得と喪失のこと)を生じるものである』と考えます。これを「権利得喪説」と呼びます。

 

訴訟法説

 

次に,時効を継続的事実の持つ推定力と考え,時効の存在理由の第二の点である立証の困難の救済を重視すると,『時効を権利の得喪を推定する訴訟法上の制度』とみることとなります。この考え方によると時効を裁判上の証拠方法ととらえ,援用(145条)は証拠の提出とすることとなります。これを「訴訟法説」といいます。

 

4.検討

 

 現行法上,「其所有権を取得す」(162条),「消滅す」(167条)とされている以上訴訟法説は解釈上無理があるといえます。また,訴訟法説では145条の当事者の時効の援用は弁論主義によることを明らかにしたものとされますが,民事訴訟法にも明文規定のない自明の理である弁論主義を民法が規定したと考えるのは不自然です。

 

 ただ,権利得喪説に立っても存在理由の第二の部分は見過ごすわけにはいきません。

 

 さらに権利得喪説の内部でも説が分かれます。

 

 まず,時効の完成によって権利の得喪が確定的に生ずるのかを巡って,「確定効果説」と「不確定効果説」に分かれます。

 

確定効果説

 

 時効の完成によって,権利の得喪は確定的に生じ,援用は,弁論主義の要請による訴訟上の「攻撃防禦方法」にすぎないとします。
 批判:当事者が攻撃防禦方法として提出するかどうかはまさに弁論主義の下自由であるとすると,当事者が提出しない場合,実体法と異なる判決がなされることになる。(ただ,この批判は,実体法と異なる私的な解決を認める民事訴訟を知らない批判のような気がします)。
 批判2:確定効果説は時効利益の放棄を利益を享受しない旨の意思表示とするが,本来時効の効果発生に意思表示を不要とすることと調和するか疑問である。
 批判3:訴訟法説に対するのと同じく145条の当事者の時効の援用を弁論主義によることを明らかにしたとするのは,不自然というものがあげられます。

 

不確定効果説

 

(1) 不確定効果~条件説

 

 時効の完成によっても権利の得喪は確定的には生ぜず,その確定は,当事者の良心を考慮するための援用・放棄に依存するとしつつ,放棄を解除条件とし,または,援用を停止条件とする説にさらに分かれます。この説は,当事者の良心(時効の効果を受けることを潔しとしない当事者の意思)を重視する(確定効果説と比較して)考え方といえるでしょう。

 

(2) 不確定効果~要件説

 

 条件ではなく,援用は時効の効果が発生するための要件とする説です。

 

※ 訴訟法説・確定効果説に立つと実体と訴訟において食い違いが生じます。不確定効果説は,裁判外での「援用」を認めるのでその場合には実体法上統一的に扱われることとなります。判例は不確定効果説・停止条件説に立つといわれています。

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