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田中謙次の宅建試験ブログ

宅建試験の受験に役立つ情報を提供します。

不動産物権変動(民法177条)における第三者

民法に関する論文

不動産物権変動(177条)における第三者

 

 民法177条は,不動産に関する物権の「得喪及び変更」は登記することが必要であると規定している。ところで,ドイツやフランスの法律によると,登記をもって公示することが必要とされている不動産物権変動は,意思表示によって生じた不動産物権変動(たとえば,売買契約による所有権移転)に限っている。そこで,このような法律のもとでは,相続とか時効により所有権を取得したという意思表示によらない不動産物権変動については,登記は必要でないということになる。そして,わが民法においても,登記を必要とする不動産物権変動は,意思表示によって生じたものに限るべきだとする説(制限説)も以前はあり,かつての判例も制限説の立場をとっていた。

 ところが,ドイツやフランスの法律は,「意思表示による不動産物権変動」であることを明記しているが,わが民法はそのようなことは規定しない。さらに,不動産物権変動において登記を要求しているのは,不動産取引の安全を保護しようとする目的があるからで,意思表示による不動産物権変動では登記を要求して,取引の安全を図ることが,その他の理由による不動産物権変動においては,取引の安全を考える必要がないというように,両者を区別する合理的な根拠はない。そこで,現在の判例・通説は,意思表示に限らず,すべての不動産物権変動について登記が必要だとしている(無制限説)。もっとも,そもそも登記というのは,不動産物権変動の対抗要件なのであるから,対抗問題となる余地のない場合には,登記は不必要ということになる。

 以下,いかなる場合に登記が必要でありまたは不要なのか,そして登記を必要とする物権変動おける第三者の範囲について検討する。

 

1 登記が必要・不要な物権変動

 

(1) 法律行為の取消(121条)・解除(545条)

 

 取消後・解除後に取引関係に入った第三者に対しては,登記がなければ対抗できない。

 

(2) 死因贈与(554条)

 

 死因贈与が取り消すことができない場合でも,その目的たる不動産を贈与者が第三者に売り渡したときは有効であり,受贈者と買主との関係は対抗関係となる。

 

(3) 特定遺贈(985条)

 

 不動産の遺贈を受けた者は,その旨の所有権移転登記を経由しないと第三者に対抗することができない。

 

(4) 遺産分割(909条)

 

 相続財産中の不動産につき,遺産分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は,その旨の登記を経なければ,分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対抗することができない。

 

(5) 時効取得(162条)

 

 時効完成後の第三者に対しては登記がない限り時効による所有権取得を対抗することができない。

 

(6) 法定地上権(388条)

 

 当事者間では問題とならないが,競落人から土地を譲り受けた第三者に対しては,建物所有者は,建物所有権の登記がなければ法定地上権を対抗できない。

 

(7) 競売

 

 強制・任意競売に基づく競落による物権の取得を対抗するには,登記が必要となる。

 

2 登記がなければ対応できない第三者―第三者の範囲

 

(1) 総説

 

 民法177条によると,不動産物権変動は,登記がないとこれを「第三者」に対抗することができない。これを反対解釈すると,不動産物権変動があっても,ある人が177条にいう「第三者」に該当しないのであれば,登記は必要ないということになる。そこで,この「第三者」とはどのような人を意味するのかが重要な問題となる。

 一般に,「第三者」とは,当事者とその包括承継人(その具体例としては相続人)以外の者を意味する。では,まず当事者とは誰のことをいうのか。たとえば,AがBにその所有する土地を売却したとすると,Aが当事者であることに問題はなかろう。しかし,Bが登記のないまま20年間その土地を占有しており,その間にAがCに当該土地を二重に売却し,Cが登記を具備した場合,Cは当事者といえるか。この場合BがCに対して当該土地を時効取得したと主張できるが,CはBからみて当事者であってBは登記なくしてCに対応できるとするのが一般である。つまり,物権変動の場面において当事者とは,物権変動により直接法律上の効果を受ける者を意味するのであって(CはBが取得時効を主張することにより権利を喪失するという直接の法律上の効果を受ける),物権行為の当事者だけを意味するものではないとされている。

 ところで,不動産登記法は,当事者及びその包括承継人以外の者でも,「詐欺または強迫により登記の申請を妨げたもの」と「他人のために登記を申請する義務のある者」は登記がないことを主張することができないと規定している。たとえば,Aが所有する土地をAからBが購入して,Bが登記しようとしていたところ,CがBを欺罔したり強迫したりして時をさせずに,別途Aから当該土地を購入し登記をしたとしても,BはCに対して登記なくして土地所有権を主張できる。また,Bが登記をすることをCに委託したにもかかわらず,CがBのために登記をせずに,Aから当該土地を購入してC名義の登記をしたとしても同様である。このことからわかるように,不動産登記法に規定されているこれらの者は,177条にいう「第三者」には含まれないということになる。

 では,それ以外の者はすべて「第三者」といえるのでしょうか。例えば,Aがその所有する土地をBに売却したが,登記は依然としてAのままであった。そこで,日頃からBに恨みを抱いていたCは,Bを困らそうとして,Aからその土地を二重に譲り受け,自己名義の登記をした場合。

 この場合,一般的にはCは,「第三者」であるといえる。そこで,このようにBを困らすという意図をもった者も,177条にいう「第三者」であるとして,Bは登記がない以上Cにその所有権取得を主張できないという考えもあろう(無制限説)。しかし,177条の目的・趣旨から解釈すればこれとは違い結論も導き出せる。すなわち,民法はなぜ登記を要求したのかという点から論理を組み立てるのである。この点について,民法は取引の安全を図るために不動産物権変動において登記を必要としたはずである。とするならば,確かに177条の文言上は第三者の範囲について何等の制限も加えてはいないが,取引の安全を図るという法の目的にしたがってこれに制限を加えることにも合理性があるといえよう。そこで,通説・判例は,不動産に関して取引上正当な利害関係をもっていない者を第三者として保護する必要はないという認識のもとで,177条にいう「第三者」とは,当事者およびその包括承継人以外の者で,不動産物権変動の登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者とする。これを上記の具体例にあてはめれば,Cは正当な利益を有する者であるとはいいがたく,したがって,Bは,そのようなCに対して登記なくして土地の所有権を主張することができることになる。そして,この場合におけるCのような地位にある者を,「背信的悪意者」と呼んでいる。

 そこで,このような「背信的悪意者」を第三者から排除することとして,「第三者」の定義はどのようになるか。この点について,「背信的悪意者」を排除する点では一致しながらも,177条をいかに理解するかという考え方の相違に基づいて,「物権的支配ないし物的支配を相争う相互関係にたち,かつ,登記による公示を信頼して行動すべきものと認められる者」とする立場と,「当該不動産に関して有効な取引関係に立てる第三者」とする立場に分かれている。これらの立場の違いは,賃貸不動産の譲受人からみて,不動産賃借人が「第三者」に該当するのかどうかという問題において顕在する。

 

(2) 背信的悪意者―まとめ

 

 ① 定義

 

 実体上物権変動があった事実を知りながら当該不動産について利害関係を持つに至ったものにおいて,右物権変動についての登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情がある場合(最判昭和44年1月16日)。

 

 ② 効果

 

 背信的悪意者であっても,177条をたんに形式的に文言解釈すれば,「第三者」に当たるものの,登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しないとされ,結局177条にいう「第三者」に当らないとされる。

 その理由は,この者の行為が自由競争原理を逸脱しているからである。すなわち,177条は自由競争原理に則ったものなので,これを逸脱した者には,同条による保護が与えられないのである。

 

 ③ 不動産登記法5条との関係

 

 判例は当初,「当該第三者に,不動産登記法4条,5条(改正不動産登記法では5条にまとめて規定されている)により登記の欠缺を主張することの許されない事由がある場合…に類するような,登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる事由がある場合」(最判昭和31年4月24日)等とし,同法5条類推という形式をとっていた。しかし,その後,不動産登記法から離れて独自に定式化された。

 

 ④ 「背信的悪意」の認定基準

 

 単に登記簿の記載の他に真実の権利者の存在することを知りまたは知り得べかりしであったというだけでは足りず,登記の欠缺を主張する第三者の行為態様,右第三者から否認される権利利益の種類内容等,諸般の事情からみて登記の欠缺を主張することが,真実の権利者との関係において信義則に反すると認められる具体的事由が存すること(東京高判昭和48年5月3日)。

 

(3) 第三者にあたる具体例

 

 ① 譲受人

 

 ・二重譲渡における譲受人相互間

 ・被相続人が不動産を贈与したが,その旨の登記がなされていなかった場合に,その相続人からその不動産を買い受けた者

 ・地上権設定登記がされたと地上の建物を地上権とともに譲り受けた者は,地上権登記がなければ土地の譲受人に地上権を対抗できない。ただし,建物所有を目的とする地上権者は,と地上に登記ある建物を所有すれば地上権を第三者に対抗できる(借地借家法10条1項)。

 

 ② 差押債権者

 

 ・不動産につき寄贈による移転登記がなされない間に,共同相続人の1人に対する強制執行として,その持分を差押えた者。

 

 ③ 賃借人

 

 ・他人に賃貸中の土地を譲り受けた者は,所有権移転登記を経由しなければ賃借人に所有権を対抗しえず,賃貸人たる地位を取得したことも主張できない。すなわち,賃料請求・賃借人の債務不履行に基づく解除権行使・賃貸借終了に基づく明渡請求をすることができない。

 

 ④ 共有者

 

 ・不動産の共有者の1人が自己の持分を譲渡した場合の,他の共有者。

 

 ⑤ 背信的悪意者からの転得者

 

 ・不動産の二重譲渡において,第二買主たる背信的悪意者から当該不動産を譲り受け,登記も具備した者(転得者)は,自分自身が第一買主に対する関係で背信的悪意者と評価されない限り,その不動産の取得を第一買主に対抗することができる。

 

 ⑥ 制限物権取得者

 

 ⑦ 強制執行における買受人

 

(4) 第三者にあたらない具体例

 

 ① 無権利者

 

 ・登記簿上所有者として表示されているにすぎない架空の権利者
 ・遺言執行者いる場合において相続人から遺贈不動産を譲り受けた者
 ・目的物の仮装譲受人
 ・消滅した債権を被担保債権とする抵当権者
 ・相続を放棄した者からの相続財産譲受人

 

 ② 不法行為者・不法占拠者

 

 ・二重譲渡された未登記建物を第三者が不法行為により毀損した場合は,各譲受人は建物登記を備えずに第三者に損害賠償請求できる。

 

 ③ 背信的悪意者

 

 ・第三者が自己の行為と矛盾した態度をとり,信義則(禁反言)に照らしてこれを認め難い場合
 ・第一買主に高値で売りうけようとして買い受けた場合
 ・第一買主に害意をもって積極的に売主を教唆して売らせた場合
 ・詐欺・強迫により登記申請行為を妨げた場合

 

 ④ 所有権が輾転移転した場合の前主

 

3 コメント

 

 ちなみに,登記がなければ対抗できない第三者の議論さらには背信的悪意者論などは,どの教材でも177条の不動産物権変動について華々しく論じられているが,この議論はそのほとんどが動産物権変動(178条)にもあてはまります。ただ,動産物権変動における公示方法は引渡であることから,譲渡に引渡を要する物権すなわち所有権だけがその対象になります。占有権・留置権・質権についてはその成立要件または存続要件として占有を必要とし,先取特権はそもそも対抗要件を必要としない物権だからです。

 

以上。

 

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