田中嵩二の宅建士&賃貸管理士試験ブログ

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占有に関する主観的要件

占有に関する主観的要件

 

普通の会話で、「せんゆう」と言ったら「専有」をはじめに思い浮かべるのではないでしょうか。宅建業に携わる人であれば尚更だと思います。いわゆるマンションの専有部分。

民法では「せんゆう」といったら「占有」を意味し、専有とは意味が異なります。占有は民法の財産法の中の「物権」に位置する概念を言います。概念という言葉を使ったのは、「権利」という言葉が使えないからです。つまり、「占有権」という言葉が別にあるので、それと分けるために概念などと言う仰々しい言葉を使います。

つまり、占有は、土地や車などの物を事実上支配する状態をいい、適法に始めた占有には、占有「権」なる権利が生じ、物権ならではの対外的な法的な効力を持ったりします。

それを行使する要件として占有者の善意や無過失という主観的なものが必要なのかがここでの論点です。

 

(1) 総説

 

 占有制度は,人が現実に物を支配している場合に,その支配を正当ならしめる権利(本権)があるのかどうかを問うことなく,その事実的支配の状態そのものを保護しようとする制度である。つまり,通常物を現実に支配している人は,その物について何らかの権利(本権)を有していることが多く,結局,そのような現実的支配を保護することにより,その背後にある権利を保護できるとされている。さらに,現実的支配自体を保護することは,社会の平和と秩序を維持することにも役立つといえよう。

 近代法における占有制度は,ローマ法のポッセシオpossesioと,ゲルマン法のゲヴェーレgewereとが相交錯して発展してきたものだといわれている。ポッセシオとは,占有を本権と完全に切り離して,事実を事実として保護しようとする立場である。それに対して,ゲヴェーレとは,占有を基礎として本権を推定する,つまり,物の支配という事実を権利そのものの現象形態として扱う立場である。

 ちなみに,ゲヴェーレの立場から説明されるものとしては,占有による権利推定(188条),即時取得(192条),ポセッシオの立場から説明されるものとしては,占有訴権(197条以下),善意占有者の果実取得権(189条)がある。

 

(2) 善意の占有者による果実の取得(189条)

 

 ① 趣旨

 

 果実を取得する権利がないにもかかわらず,これを有するものと誤信して占有する者は,果実を取得し,費消するのが通常である。にもかかわらず,あとで本権者からその返還ないし代償を請求されるとすると善意占有者にとって酷である。そこで,本権者・占有者間の法律関係につき,占有に独自の効力を与えたのが本条である。

 

 ② 要件

 

 ア.善意の占有者であること

 

 善意の占有者とは,果実収取権を含む本権(所有権・地上権等)を有すると誤信する占有者をいう。果実収取権を含まない本権(留置権・動産質権等)があると誤信しても,本条の適用はない。

 また,善意であればよく過失の有無は問わないとするのが判例・通説である。
 善意の判定時期は,果実につき独立の所有権が成立する時である。天然果実の場合は,元物から分離するときであり,法定果実の場合は,善意の存続する期間に日割をもって決する。

 本権の訴えで敗訴したときは,起訴の時に遡って悪意占有者とみなされる。これは果実の取得についての擬制であり,不法行為の故意・過失を擬制するものではない。

 

 イ.果実を取得すること

 

 取得される果実には,天然果実法定果実のほか,占有物の利用による利益も含まれる(判例)。たとえば,甲所有の山林を乙が自己の所有に属するものと過失なく誤信して占有中,その一部を伐採して自宅に運び込んだ場合,その伐採木材が山林の果実と認められれば,乙はその木材の所有権を取得する。また,所有権があると信じて他人の所有家屋に居住していた者は,その居住によって受けた利益を所有者に返済しなくてよい(判例)。

 

 ③効果

 

 本条は物を返還すべきすべての場合(法律行為の無効・取消や契約の解除によって物を返還する場合)に適用される(判例)。 また,物の占有に関する不当利得については,本条が703条に優先して適用される(判例)。 さらに,本条が適用された場合でも,不法行為による損害賠償責任は排斥されない。

 

《論点:189条の適用範囲》

 

 形式的に189条の要件を充たす場合には,善意占有者は常に果実収取権を有すると解してよいか,給付物返還請求権の性質とも関連して争いがある。例えば,売主Aが売買契約を取消し買主Bに対し目的物の返還を請求した場合についてどう考えるか。
 学説は次の如き展開を見せている。

 

Ⅰ説(初期の学説)

 

 初期の考え方はこの問題を物権行為の有因・無因の問題と関連させて論じていた。すなわち,無因説では売買契約が取り消されても所有権はAのもとにないので,Aは不当利得返還請求権によって宝石を取り戻すことになる。有因説では,契約の取消によってBに所有権が移転しないので,Aは所有権に基づく物権的請求権によって宝石の返還請求ができることになる。

 

Ⅱ説(占有の不当利得論)

 

 Ⅰ説の考え方によれば,わが民法上無因の特約が認められているから,特約の有無によって,不当利得返還請求権か物権的請求権かに分かれてしまい統―性に欠けるし,さらに効果の点でも次のような差異が生じる。すなわち,無因の特約のない場合は,Aは物権的請求権を行使することになり,したがって,民法189条1項が適用され,相手方Bは果実を返還する必要がないが,無因の特約がある場合には,Aの不当利得返還請求に対してBは利益の現存する限り果実を返還しなければならない(703条)。とすると,非所有者(無因の特約のない場合)が所有者(無因の特約のある場合)より厚く保護されることになっておかしいことになる。

 そこで,有因説に立ちながら,この場合のAの返還請求権の根拠を特約の有無にかかわらず,不当利得に求めようとする占有の不当利得論が登場する。すなわち,契約の取消によりBは所有権を取得しないにもかかわらず,宝石を占有しつづけている。これは,法律上の原因のない不当利得であり,したがってAは,この占有の不当利得返還請求によって,宝石の返還請求ができる,というのである。そして,この見解は,189条が703条以下の特則をなすから,前者のみを適用すべきだとする(ただ,この点について,こう解すべき実際的理由は述べられていない)。

 

Ⅲ説(類型論)

 

 近時,不当利得が問題となる場面を分けて,場面ごとにそれぞれ要件・効果を検討する見解が有力に主張されている。すなわち,設例のような双務契約の取消の場合には,当事者の公平のために,Aの宝石返還請求権とBの代金返還請求権との牽連関係をみとめて,双務契約における対価的牽連関係を確保する諸規定を類推適用すべきである,というのである。

 そして,189条については,そもそも果実取得につき占有者というだけで特に優遇する根拠はうすれており,無効・取消の事後処理としては,給付物から生じた利益は原則として全部返還させるのが公平である,すなわち,189条の適用を排除すべきだと主張している。

 

(3) 悪意占有者による果実の返還(190条)

 

 ① 趣旨

 

 真正の権利者をして適当な時期に収取させなかったため生じた損害につき,悪意占有者に賠償させる趣旨から認められた規定である。悪意の不当利得に関する一般規定たる704条の特則になる。


 ② 適用範囲等

 

 売買の目的物から生ずる果実については,190条ではなく,575条による。

 果実の返還・代価償還に関する限りでは不法行為の特則をなす。その他の点では不法行為の一般原則の適用がある。また,悪意の占有者が不法行為責任を問われるのは,単に悪意というだけでなく,故意・過失に基づいて回復者に損害を生ぜしめた場合である(判例)。

 

(4) 占有者による損害賠償(191条)

 

 ① 趣旨

 

 占有物の滅失・損傷が生じた場合について,善意占有者と悪意占有者それぞれについて,回復者との関係を規定したものである。


 ② 占有者・滅失

 

 占有者とは,回復者との関係で占有すべき本権を有しない者をいう。両者の間に法律関係が存在すれば回復者との関係はそれにより決せられる。

 現存利益の賠償に限定されて保護を受けるのは,所有の意思を有する善意占有者のみである。なぜならば,所有の意思を有しない他主占有者は,本来物の返還についての認識があるため,損害全部の賠償をさせても酷とはいえないからである。
 滅失とは物理的滅失に限らず,第三者に譲り渡して返還が不能になった場合も含む(判例)。

 

(5) 占有者による費用の償還請求(196条)


 ① 趣旨

 

 占有者が権原なく占有物に費用をかけ,物の価値を維持・増加させた場合の投下費用の回収について規定したものである。償還される費用の範囲について,事務管理(702条)・不当利得(703条,704条)の特則である。


② 費用 

 

 ア.必要費

 

 物の保存および管理に必要な費用をいう。たとえば,修繕費や公租公課などがそれにあたる。


 イ.有益費

 

 物の利用・改良のために支出し,物の価値を増加せしめる費用をいう。たとえば,建物の前の道路のコンクリート工事,雨戸の新調,排水工事などがそれにあたる。

 

 ③ 償還請求


 ア.必要費


 占有者は善意・悪意を問わず,また所有の意思の有無を問わず,全額償還請求できる。ただし,占有者が果実を取得した場合,善意占有者は「通常の費用」つまり物の使用から通常生ずる費用を負担する。それ以外の臨時ないし特別の必要費の償還を請求できるだけである。


 イ.有益費


 占有者は善意・悪意を問わず,また所有の意思の有無を問わず,償還請求できるが,目的物の価格の増加が現存する場合に限られること,回復者の選択する支出額または増加額のいずれかに限られること,が必要費の場合と異なる。
 また,悪意の占有者も善意の占有者と同様,有益費償還請求権自体を認められる点は異ならない。しかし,裁判所は,回復者の請求によって,その償還につき一定の期限の猶予を与えることができる。
 さらに,この償還請求権は,占有者の善意・悪意又は必要費・有益費を問わず留置権により保護される。

 

以上。

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