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代理行為論

代理行為論

 

自分の代わりに契約等を結んできてもらうだけの話が、法理論上は学説上の争いになるほど込み入った話となっています。宅建試験や実務レベルで代理に触れた方にとったら、何をどう争えるのか?疑問に思うかもしれません。

論点は、意思表示を行う主体は本人か代理人かという点です。どちらでも良いような気がしないでもないが、細かい点でその点をはっきりさせないとうまく説明できない部分があるので、対立となります。

以下、学説・判例の理論を紹介します。

 

1 論点の整理

 

 代理人の行った法律行為の効果がなぜ本人に帰属するのか。
 我国の通説・判例は,代理人が法律行為をなす主体であり,顕名および代理権授与行為という付随的な要件を備えれば,本人に効果が帰属するとする(代理人行為説)。
 たしかに,条文上も,顕名がなされなかった場合に代理人と相手方との間で効果が帰属すると定め,また,代理権授与行為が存在しない場合には,相手方が無権代理人に対して履行または損害賠償請求をなし得,さらには取消権行使も可能なる旨が定められており,代理人が法律行為をなすと解釈し得る根拠もある。
 しかし,ドイツの理論が導入されることで,我国内でも,代理行為に関する学説の対立が生じ,理論上は渾沌としている。ここにその状況を整理しておく。

 

2 代理における行為者

 

 代理の法的構成については,19世紀のドイツ普通法学で展開されており,今なお民法基礎理論の問題点の一つである。
 民法の体系条の位置付けとしては,代理は法律行為制度の中にある。しかし,現象的には,本人・代理人・相手方に分極し,実際上の行為は代理人と相手方において行われているにもかかわらず,それから生ずる法律効果が,直接,本人に帰属するという意味において,自らの行為によって自らが法律効果の帰属者となるとする法律行為論からみて,例外的であるといえよう。
 このことから,代理人の行為により本人に法律効果を発生させる根拠をどこに求めるべきであるかが問題となるのである。換言すれば,本人・相手方という図式を前提に形成されてきた法律行為理論に,三分極化されている代理をどのような論拠に基づいて融合させるのかの問題であり,これが代理の法的構成の問題である。この点について,周知の通り,本人行為説・代理人行為説・共同行為説が対立する。

 

(1)  代理人行為説(通説・判例

 

 本人に対する代理行為の効果帰属の根拠を代理人の代理行為における効果意思に求める見解。その要件として,本人の代理権授与行為の存在,あるいは追認のあることを必要とする。
 その根拠としては、第一に、民法101条1項の文言解釈である。すなわち,意思表示の瑕疵につき代理人を基準としている。つまり,代理人によって意思表示がなされていることを前提としている。
 第二に、民法99条も「代理人がなしたる意思表示」としていることが挙げられる。
 第三に、代理の顕名は,代理人がその意思表示に際し効果が自己ではなく本人に生ずることを表現しているに他ならない。本人に効果が生ずるのは,これに向けられた代理人と相手方の意思表示,ならびにこの意思を認める法律に基づくことが挙げられる(Lehmann-Hubner, Allgemeiner Teil des BGB (1966) S.302 )。
 第四に、代理は,本人に対して一定の関係にある者が、本人の権利関係に変動を及ぼそうとする意思表示をするときに,法律がこれを認めてその効果を保障するものであることが挙げられる(我妻栄「新訂民法総則329頁」)。
 しかし、この説によるならば,代理は,私法を支配する私的自治の原則と矛盾し,法律行為理論の中に位置づけることができない。すなわち,私法は自己の利益について当事者自身がもっとも適切な判断者であるという私的自治の原則に立っている。法律行為はこの自己決定を実現するものであるから,代理が法律行為において許されるかぎり,代理もまたこの自己決定の理念に服さなければならない。代理人行為説のように本人に法律効果が生ずる根拠を代理人と相手方の意思に求め,本人は代理行為の効果を引き受けるのだけであると解するのはこの私法の理念と相容れない。このため,任意代理は,本人が代理権授与行為により,代理権の範囲内の自己の決定力を代理人に委任し,その結果,代理人が本人に代わって法律効果を評価することができるという考えの表現である。法律要件に対する本人の寄与は,代理の効果の一つの成立要素を形成する。代理権授与行為のこの働きを認めなければ,代理は法律行為の原理と調和しない。代理効果の帰属は,代理行為における代理人と第三者の意思表示ならびに代理権授与の表示の中にある本人の同意し協力する意思によってもたらされる(Muller-Freienfels, Die Vertretung beim Rechtsgeschaft, 1955)。

 

(2) 本人行為説(Savigny)

 

 代理において意思表示をなすのは本人であるとする。
 その根拠としては、第一に、代理人は本人の授権行為に基づく意思表示をなすものであって,代理人の行う意思表示は,本人の授権行為に基づく意思表示をなすものであって,代理人の行う意思表示は,本人の意思表示にすぎず,法律行為の当事者は本人であり,それゆえ当然に,本人に権利・義務の効果が発生する。
 第二に、代理人が選択し決定した意思は,常に本人の意思であり,代理人自身は,その場合に,本人の意思の単なる担い手として現れる。契約は,本人の意思によって締結しており,それゆえに,その契約からの効果が本人に直接発生する(savigny, Das Obligationenrecht, Bd2S. 57 ff)。
 しかし、代理人は本人の意思の担い手として本人の意思を表示するものとみなされ,代理人の意思を本人の意思と擬制せざるを得ないことになる。

 

(3) 共同行為説(Mitteis)

 

 代理における法律行為は、代理人と本人との共同によって成立するとする。
 その根拠としては、代理人と本人とが共同して法律行為を行うのであって,両者共に法律行為の締結者であるとみる。Mitteisは,代理における法律行為を,代理人と本人との間に分割し,法律行為をする者はひとり代理人のみでもなければ,またひとり本人のみでもなく,常に,彼ら両人が真実法律的に行為をなし,両人が法律行為の作成者であることによって法律効果が発生するとみる(Mitteis, Die Lehre von der Stellvertretung, S. 109 ff.)。
 しかし、第一に、法律行為の意思が代理人と本人とに分割されるとされてきたことから,法律行為の意思そのものの分割が認められるのか,その意思が如何なる割合に分配されるというのか,さらに,法律行為の意思の分割が認められるとしても,そのときは,その結果である法律効果もまたその割合に応じて分割されなければならないため,その本人に対して直接効果が生ずる論拠の半分は説明できるが他の半分は説明できない(中島玉吉「代理ニ就テ」民法論文集22頁)。
 第二に、一つの意思表示がある一定の法律効果を発生させるか,発生させないかであって部分的な意思表示や法律効果というものは考えられない(Muller-Freienfels, a. a. O., S.14.)。

 

(4) 統一要件説(Muller-Freienfels)

 

 この説は,共同行為説に対する批判を踏まえ,共同行為説が志向した本人と代理人の双方を法律行為論の中に位置づけるという考えに立ってその目的を達成させようとした,Mullerが主張したものである。すなわち,法律行為である本人の代理権授与行為と,法律行為ではない代理人の行為とが共同して,代理による法律行為が成立するとする。
 その根拠としては、代理を分析すれば代理権の承認という形式的部分と代理行為という実質的部分に分かれるが,代理効果が法律行為としての効力を発生する根拠となるのは,それ自体,法律行為である本人の代理権授与行為とそれ自体は法律行為ではない代理人の行為とが共同して一つの法律行為を形成することにある。代理の法律要件は,代理権授与と代理人の行為とからなる統一要件なのである。本人の代理権授与行為は,それ自体法律行為であると同時に代理権授与と代理人の行為とからなる法律行為の法律要件構成事実をも構成する。このため,代理権授与は法律行為ではあるが,それのみでは未だ確定的にいかなる代理効果も生じない。そこには,終局的法律効果をもたらす実質的行為(代理人の行為)への本人の関心が内包され,代理人が代理行為を行うための前提とされる組織的な特別の地位が生まれる。代理人の行為は,本人のために決定するものであり,代理人自身のための自己決定ではないため,法律行為ではない。このように,代理権授与は,代理人に対してある種の代理権という地位を与えるという法律効果を意図しているとともに,代理の効果についてもそれを意図していることから,代理人の行為と有機的に結合することによって代理効果が発生する。
 しかし、法律行為の主体が誰であるかがはっきりしないし,もし本人と代理人がともに主体であるというなら,共同行為説と同じ誤りを犯したことになる(高橋三知雄「代理理論の研究」78頁)。

 

3 委任契約と代理権授与行為の関係

 

(1) 授権行為の法的性質

 

① 無名契約説(通説)

 

 代理権は内部関係を設定する契約とは別個独立の授権行為により発生するとする。しかもその授権行為は無名契約である。
 その根拠としては、第一に、民法は,代理と委任とを必ずしも判然と区別しない立場にあるのだから(104条・111条2項),その解釈としては,委任に類似した一種の無名契約とするのが穏当である。
 第二に、実際には,本人が代理人の承諾を得て代理権を発生させること。
 第三に、委任状には一方的な授権の形式がとられていても,その背後には契約があること。
 第四に、「委任による代理」という場合の委任は,643条に規定するものでもなく,「本人を代理して意思表示をなすことを委任する委任的契約」と解せば,必ずしも文言にも反しない。

 

② 単独行為説(柚木,川島,舟橋等)

 

 代理権は,内部関係を設定する契約とは別個独立の授権行為により発生するとする。しかもその授権行為は本人の単独行為である。
 その根拠としては、第一に、授権行為は代理人にとって何らの義務も不利益もともなわず,代理権を授与することだけを職分とするから,代理人の承諾はその要件でありえない。
 第二に、実質的理由として,授権行為を本人の単独行為と解すれば,代理人の側から委任などの契約が取り消されても授権行為自体は影響を受けず,代理権は遡及的に消滅することはない(無因)から,そのような代理権に基づいて取消前になされた代理行為の相手方は保護されることになり妥当な結果をもたらしうる。
 第三に、わが国の取引界においては,委任契約から分離して代理権授与のみを書面化する場合は「委任状」という形式の文書を作成する慣行が支配的であるが,それには代理権を授与する者の署名もしくは記名と押印のみがあって,代理人の署名もしくは記名と押印がなく,単に一方的に代理人の氏名が記載されているにすぎず,このことは,授権行為の単独行為的性質を反映している。

 

(2) 授権行為と委任契約は別個のものか

 

 委任契約の取消により,授権行為も直ちにその効力を失うかについては,両者を一体的なものとみるか,別個のものとみるかにより結論を異にする。すなわち,前者とすると授権行為は委任契約と運命をともにすることになり,後者とすると次の有因・無因の問題へと発展していくことになるのである。

 

① 我妻説(通説)

 

 代理は,本人・代理人間の対内関係とは概念上何ら関係のない独立の制度であり,代理権は,対内関係の権利義務と関係のない独立の地位であるとする。
 その根拠は、第一に、委任は,必ずしも代理を伴うものではなく,また,代理に伴う対内関係は,必ずしも委任とは限らない。問屋・仲買人などは前者の例であり,雇傭・組合はもとより請負にも代理を伴いうることは後者の例である。
 第二に、代理権の本体は,代理人の行為によって本人に権利義務の変動を生じさせる地位であるから,この概念の中には,本人のために行為をなすべき義務は,包含される余地がない。代理は,これらの義務の存否にかかわらず,存立することができる。したがって,代理は,委任のみならず,他のすべての対内的関係から独立した地位である。

 

② 於保・森島説

 

 委任と代理とを一体的に理解する。
 その根拠は、委任と代理との関係に関する論争は実り少ないものであり,両者を峻別しなければならない実際上の必要もなければ,また,そうしなければならない理論上の必然性もないからである。わが民法の規定は,ドイツ民法のそれとは異なっているのであるから,規定通りに,委任と代理とを一体的に理解するほうがより素直である。

 

③ 四宮説

 

 対内関係たる事務処理契約(委任・雇傭・請負等)と授権契約とを区別せず,代理権は事務処理契約に基づいて発生すると考える。
 その根拠としては、代理行為は他人の事務の処理行為の一種であるから,代理権授与は事務処理契約の一内容をなすものであり,したがって,代理権は事務処理契約に基づいて発生すると考えるのが自然である。

 

(3) 授権行為の有因性・無因性

 

 授権行為の独自性を否定し,対内関係たる委任等と代理とを一体的に捉える立場からは,委任契約が取り消されれば授権行為も遡及的にその効力を失う。これに対し,独自性を肯定し,委任と代理とを区別する立場に立った場合,委任契約の取消により代理権授与行為がいかなる影響を受けるかは,両者を一方(委任契約)が消滅すれば他方(授権行為)も消滅するとして有因性を肯定するのか,あるいはこれを否定するのかによって結論が異なることになる。

 

① 無名契約説かつ有因説(我妻)

 

 委任契約とその手段たる授権契約とは普通は因果関係で結ばれているとする。すなわち,ある事項を委任するから代理権を与えるのであるという目的と手段との関係で結ばれているとみるべきであるから,特に無関係なものとされない以上は,前者の取消によって,後者も効力を失うことになると解する。

 

② 単独行為説かつ有因説(川島)

 

 原因関係上の契約を取消したときには,授権行為も原因関係上の契約と運命をともにして遡及的に失効すると解する。授権者の通常の意思に合致するからである。

 

③ 単独行為説かつ無因説(加藤,柚木,近藤)

 

 授権行為を本人の代理人に対する無因の単独行為と解するときは,基本関係たる内部関係(委任)の取消によって代理権は将来に向かってしか消滅しないとする。無因説とはいえ,委任契約を取消した後も代理権がなお存続すると解しているわけではないことに注意すべきである。

 

4 強迫による授権行為の取消と表見代理

 

(1) 表見代理(109条)肯定説(山中,近藤)

 

 まず、授権行為が無効・取消の場合に代理人が委任状を第三者に提示したときは授権表示にあたること。つぎに、表示は事実であるから授権行為の遡及的失効もかかる表見代理の成立を阻止しうるものではないことがその根拠である。

 

(2) 表見代理(112条)肯定説(森島)

 

 代理人は取り消されるまでは一応代理権を有していたのであるから,代理権消滅後の表見代理が成立する。
 しかし、はじめから代理権が存在しない場合には112条の適用はないのであるから,取消によって授権行為が遡及的に無効となった場合にも112条の適用の余地はない。

 

(3) 表見代理否定説(幾代,下森,甲斐)

 

 この見解の根拠としては、第一に、109条にいう授権表示は「観念の通知」であるが,それが表示者にもたらす表見代理という効果の重要性に鑑みれば,意思表示に関する規定を類推適用すべきである,そして,本人は,代理人の強迫により代理権を授与したのみならす,委任状の交付によって授権表示をなしたのであるから,委任契約ないし授権行為を取り消せば,同時に授権表示をも取り消したものとみることができ,これにより授権表示は遡ってなかったものとみることが可能である。
 第二に、109条・112条は,外観法理に基づいており,授権表示ないし代理人の代理権消滅を放置していたことが本人の帰責性として要求されるが,強迫により授権行為(授権表示)がなされた場合,本人に帰責性が認められず,109条・112条を適用ないし類推する基礎を欠く。
 第三に、買主の売主に対する強迫により売買契約がなされた場合,目的物が第三者に転売されても,売主は第三者に強迫に基づく取消を対抗できる。代理人が本人を強迫して授権行為をさせ,第三者と代理行為をなした場合も,利益状況としては同じはずである。

 

以上。

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