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時効制度の法的性質

時効制度の法的性質

 

1 時効の定義

 

 時効とは,一定の事実状態,例えば,ある人が所有者であるような事実状態,ある人が債務を負担していないような事実状態などが永続した場合に,この状態が真実の権利関係に合致するものかどうか,いいかえれば,果たして所有者であるかどうか,果たして債務がないかどうか,を問わずに,その事実状態をそのまま尊重し,これをもって権利関係と認め,他に真実の所有者があっても,また真実に債権があっても,その主張を許さない,とする制度である(我妻栄民法総則」430頁 岩波書店1993.10)。

 

2 時効の存在理由(正当化根拠)

 

 「元来,法律は,正当な権利関係と異なる事実状態が存在するときは,正当な権利関係に基づいて,この事実状態を覆すこと,すなわち,前の例で言えば,所有者であるような行為をする者に対しては,その目的物の占有をやめて真実の所有者に返還することを命じ,債務を負担していないような主張をする者に対しては,債務の存在を承認させ,またはその弁済をさせることを努めるものである。しかるに,時効制度においては,あたかも反対に,事実状態を尊重してこれを権利関係に高めようとする。かような制度理由は何であろうか。」(我妻栄民法総則」430頁 岩波書店1993.10)

 学説には,取得時効と消滅時効について,統一的に存在理由を考えるものと,別々に考えるものとがある。

 

かつての通説(統一的に考える説。多元説)

 

《結論》

 取得時効と消滅時効を区別することなく,両者に共通する存在理由として,

 ①ある事実状態が継続すると,社会がその事実上の状態を正しいものと信頼し,それを基礎としてその上に法律関係が形成されてくる。それを真実の法律関係に基づいてくつがえすと,事実状態を信頼して法律関係に入った者は損害を蒙るから,社会の法律関係の安定,つまり第三者の保護のために,事実状態を権利に高めることが必要である。
 ②永続した事実状態は通常,真実の法律関係に合致していることが多いことを前提にして,古い事実についての立証の困難を救済すること。
 ③永続した事実状態がたまたま真実の法律関係に反していても,権利の上に眠る者は保護するに値しないこと。
 の3つをその存在理由とする。

 

《批判》

 ①具体的な法律の規定およびその解釈と密接な関連をもたせることなしに存在理由を論じている。
 ②永続した事実状態の尊重によって社会生活を安定させる,という場合の「社会生活の安定」の概念の内容が明瞭でない。「権利者らしい外観を信頼した第三者を個別的に救うならわかるが,第三者が出る可能性があるという理由で,権利者の権利を失わせるということは,普通はないことである。権利者の外観を信頼した者が保護されるためには,権利のないことについての善意または善意無過失が要求されるのであって,そえを問題にしないで権利が取得されたりするのは,いかにも他と均衡を失する。従って,これは説明としてはむりのように思われる。やはり,補充的な根拠と考えるべきであろう。」(星野英一民法概論Ⅰ(序論・総説)」250頁)
 ③存在理由を多元的に捉え,あれもある,これもある,という説明では,各存在理由がいかなる論理的関連で結合しているかを明示しない以上は,あたかも不明瞭で多義的な概念を用いて説明するのと同じになる。
 ④各時効においてどれが主であり,どれが従であるといっても,いかなる意味で主従の関係であるかを明らかにしない限りは同様な欠陥を免れない(採証上の制度として捉えつつ「副次的」に,権利の上に眠る者は保護しない趣旨だ,と説明する場合は,真実の権利者が時効により権利を失っても止むを得ない根拠を説明するのである限り不明確さはない。もっとも,ここでいう権利行使を怠るとは,時効中断手続の行使を怠るというよりも,具体的な意味で捉えるべきであろう)。

 

採証上の制度と解する説

 

《結論》

 永続した事実状態は通常,真実の法律関係に合致していることが多いことを前提にして,古い事実についての立証の困難を救済すること(採証上の根拠)の一元的な根拠をもって説明する見解。

 

《理由》

 ①具体的な法条の解釈と関連付けて存在理由を捉えることができる。
 ②明確な概念を用いて捉えることができる。

 

《批判》
 消滅時効および長期取得時効には当てはまるとしても162条2項の規定する短期消滅時効には当てはまらない。というのは,もし採証上の制度なら,占有のはじめが何時であったかを確定する必要はなく,現時点まで一定期間を超えて継続せる占有があることさえ確定されれば,その占有の始めに原所有者から占有者への権利移転があったとして扱われることになるはずなのに,短期取得時効では占有の始めにおける善意無過失が要件とされており,占有開始時を確定することが必要となるからである。

 

来栖・三藤の主張する見解

 

《結論》
 短期取得時効をもって,無権利者からの譲受人を保護するための即時取得の制度と対応するところの,しかしそれもよりも要件を加重した,取引の安定のための制度と解する見解(来栖「民法における財産法と身分法(3)」法学協会雑誌61巻3号,三藤「取得時効制度の存在理由について」学習院大学経済学部研究年報5号12頁以下)。

 

川島の主張する見解

 

《結論》
 取得時効の目的と構成を分けて捉え,取引安全の目的のために,占有を権利取得の法定証拠と解する見解(川島「民法総則」546頁)。

 

船橋の主張する見解

 

《結論》

 通説たる多元説の立場を発展させて,取得時効の目的は,主として,占有者と権利者の間の目的物に対する利害の比較衡量の結果占有者に権利取得を認めるものと解する見解(舟橋惇一「民法総則」168頁)。

 

安達三季生の主張する見解

 

《結論》

 第一に,消滅時効は採証上の法的証拠制度である。
 第二に,短期取得時効は,善意無過失で無権利者から譲り受けて占有するための取引安全をはかる趣旨を含みつつ,しかしそれよりもより広く,善意無過失で他人の物を占有取得して(この場合,取引行為による取得に必ずしも限定されない),これを継続することによって,目的物に対して真実の権利者よりも厚い利害関係を有するに至った占有者を保護し,その権利取得を認める趣旨である。
 第三に,長期取得時効は,一面で,採証上の法定証拠制度であるが,他面で,短期取得時効におけると類似した趣旨,すなわち善意無過失でない占有取得者が長期の占有によって真実の権利者以上に,目的物について厚い利害関係を有するに至る場合に,これを保護する趣旨である(民法の争点Ⅰ74頁)。

 

星野英一の主張する見解(法学協会雑誌86巻6号・8号,89巻1号,90巻6号)


《結論》
 ①第一に,時効制度の存在理由を考える場合は,(1)立法趣旨,(2)実務(機能),(3)制度の解釈運用上あるべき存在理由とを分けて論じなければならない。従来の学説はこれを分けて論じていなかったと批判する。
 ②第二に,(3)の意味での存在理由について,取得時効と消滅時効にわけ,かつ前者も短期と長期に分けて論ずるべきである。
 ③短期取得時効は,取引安全のための制度である。そして,それが適用される場面は,前主が無権利である場合のみならず「広く譲渡行為の無効・取消・無権代理・解除,さらにはその存在の認定されない場合が挙げられる。
 ④長期取得時効は,もっぱら採証上の制度である。
 ⑤消滅時効は,解釈論として原則的には,二重弁済を避けしめるための採証上の制度と解しつつ,しかし具体的には時効ごとに存在理由を考えるべきである。
 ⑥時効は,短期取得時効などの例外的な場合を除いて真の権利者の権利を確保し,弁済者の二重弁済を避けしめるための制度であり,換言すれば,真の権利者から権利を奪ったり,弁済していない債務者の債務を免れしめるための制度ではない。そして,右のような趣旨を実現するための時効の法的構成としては,旧民法の「推定」という構成がもっとも適合したものであった。」


《批判》
 ③の短期取得時効の存在理由についての具体例に対して,譲渡行為の存在が認定されない場合(たとえば買受の代理権を与えられている者が他人から盗んで善意の本人に占有を渡した場合とか善意の表見相続人による占有の場合を考えよ)についてまで,取引安全の概念で捉えることは不当であろう。

 

星野英一民法概論Ⅰ(序論・総説)」251頁】

 

 全体を通ずる問題として,1つ考えておきたい点がある。どれも,義務者に義務を免れさせたり,非権利者に権利を取得させることの根拠を問題にしている。しかし,まったく別の見方も可能ではないか。つまり,ある種の時効については,弁済をしたために義務のない者や真の権利者を保護するための制度である,と考えたほうがよいのではないかと思われる。これは,ボアソナードの考え方であり,フランスにも存在する考え方である。すなわち,大多数の場合に,債務は弁済され,正当に所有権が取得されているが,その根拠となる書類などをそう長い間きちんとしておけといっても素人にはむりである。ところが,債権者が古い債権証書をたてに未だ弁済がないと主張したり,売主がかつての所有権の証拠をもっていて自分の物だと主張したようなときに,弁済者・所有者が弁済・所有権取得の証拠方法がないために敗訴になったり,そこまでゆかなくても,訴訟で煩わされるのでは,気の毒である。そこで,これらのものを保護して,安心させるために,弁済や所有権が存在すると認めようというのが,時効の制度である。ある学者は,われわれの所有権の多くは,事項によって固められたものである,といっている。もちろん,時効を規定すると,弁済をしていない者,他人の物を自分の物のようにふるまっていた者もそれによって利益を受ける可能性はある。この点は,時の経過以外の要件を注意して規定することによってかなり防ぐことができるが,どうにもやむを得ない場合の残るのはしかたがない。どんな制度も悪用される危険はあり,悪用の危険と本来の利点と比較して,後者が著しく大きければこれを採用することになるのである。このように考えると,右の趣旨に合しない限り時効を認めないほうがよいと解すべきことになる。大ざっぱにいうと,あまり時効を広く認めないほうがよいこととなる。

 個別的にいうと,民法162条2項の取得時効は,その起草趣旨に関する限り,さきの第四の理由(取得時効のうち,民法162条2項の10年の不動産については,民法192条と対応し,不動産の取引安全のための制度である)のいうとおり,不動産を,前主の無権利等につき過失なく知らずに譲り受けた者を保護する取引安全のための制度で,動産に関する民法192条と対応する規定であったといってよい。ただ,今日では若干の問題がある。

(改正前民法162条は,1項で 「20年間所有ノ意思ヲ以テ平穏且公然ニ他人ノ物ヲ占有シタル者ハ其所有権ヲ取得ス」,2項で「10年間所有ノ意思ヲ以テ平穏且公然ニ他人ノ不動産ヲ占有シタル者カ其占有ノ始善意ニシテ且過失ナカリシトキハ其不動産ノ所有権ヲ取得ス」 と規定していました。
 これに対して改正後の民法162条は,1項で「二十年間,所有の意思をもって,平穏に,かつ,公然と他人のものを占有した者は,その所有権を取得する。」,2項で「十年間,二十年間,所有の意思をもって,平穏に,かつ,公然と他人の物を占有した者は,其の占有の開始のときに,善意であり,かつ,過失がなかったときは,その所有権を取得する。」と規定しています。
 このように,2004年改正では2項の短期取得時効の客体が「不動産」から「物」に改正されています。もっとも改正前から判例・通説は短期取得時効の客体を不動産には限定していなかったのですが,2004年改正でそれが明文化されたのです。詳細は後述参照)

 民法162条1項の20年の取得時効は,先に述べたように,証拠を失った心の所有者に所有権の証明を容易にさせる趣旨であると解したい。同項は,特に土地の境界の争いについて意味をもっている。さらに,同項は,2項を補充する意味をもっている(譲渡時の善意無過失の証明が困難な場合)。従って不動産登記簿の整備と共に,不動産の取得時効制度の機能は減少してくるわけであり,ドイツのように,意思表示による不動産所有権の移転に登記を効力要件とする立法においては,そうであるが,日本では,不動産所有権の移転に登記が効力要件となっていない(民法176条,177条)から,なお意味がある。
 消滅時効のうち,債権のそれは,一般的には,弁済したがその証拠方法を保全していない者を保護する趣旨といってよい(従って,「時効にかかる」というのはあまり適切な表現でないが,通常用いられているので,ここでも用いた)。ただ,消滅時効の一つ一つが,かなり特殊の趣旨を含んでいる。さらに,そもそも一定の種類の債権は,一定の期間しか存続しないと解されるべきものがあるように思われる。この場合には,時効を広く認めてよいわけである。
 このように,時効については,存在理由の異なるものにつき,それぞれの目的にふさわしい構成を考えるべきである。大ざっぱにいって,その存在理由が,右に述べた真の権利者・弁済者の保護にあるとすれば,法律構成としては,時の経過による権利の得喪でなく,証拠法上の制度とすべきであった。しかし,わが民法は,明文で,これを権利の得喪原因としており,これに反する解釈にはむりがある。つまり,わが民法の時効は,目的と手段とが十分に適合していない,ということになる。そこに,学説が分かれ,どの説をとっても苦しい説明のいる問題が出てくる根源があると思われる。

 

3 時効制度の沿革・比較法

 

(1) 歴史

 

 時効は,ローマ法以来の沿革を有する制度である。時代や国によりその要件・効果は一様ではないが,権利不行使が長く続くと権利の強制的実現ができなくなる制度として共通する(ヨーロッパの時効法制史については,フランス:金山直樹「時効理論展開の軌跡」(1994),ドイツ:吉野悟「近世私法史における時効(1989)」。日本の現行時効制度は,フランス民法の時効をもとにボアソナードが起草した旧民法の時効を修正してつくられた。フランス法が取得時効と消滅時効をまとめて規定している点,時効を権利取得・義務からの解放の方法としている点,援用を必要としている点,登記が不動産取得時効の要件となっていない点などから,我法はフランス法に近いといえる。

 

(2)比較法

 

 近代法典においては,取得時効と消滅時効とを統一的に把握し規定するか,別々に把握し規定するのかの問題がある。
 ドイツ,スイス,イタリアは分離システムであり,オーストリア,フランスが統一システムを採用する。
 時効の効果につき,実体法上の権利の取得・義務の消滅と構成するか,訴訟法上の問題とするかで分かれる。いちおう,フランス民法と,ドイツ民法の取得時効とが実体法の問題としており,ドイツ民法消滅時効と,日本民法とが訴訟法の問題としている(学説の対立がある。後述参照)。
 この流れの中で,日本民法が統一システムを採っていることは間違いない。実体法の問題か訴訟法の問題かについては,起草者は,旧民法を改めて実体法の問題とする趣旨であったことは明らかだが,今日の学説には,訴訟法の規定と解するものもある。
 時効を広く認めるか否かについては,これを広く認める趣旨の規定として,占有の始めにだけ善意無過失を要求する162条2項がある。これは,フランス民法に由来するが,同法は,全期間の善意を要求する教会法と反対の解決をしたといわれている。反対に,時効を制限する趣旨の規定としては,当事者の「援用」を時効の要件とする145条がある。これはフランスで「良心規定」などといわれ,期間の経過により当然時効の効果が発生するものとしないで,当事者の良心に委ねようとした規定だとされる。もっとも,今日わが国では,同条を別のしかたで説明する説が多い。さらに,単純な催告に弱いながらも時効中断の効力を認める153条も,旧民法以来のものだが教会法と同じ趣旨の規定と言われている(星野英一民法概論Ⅰ(序論・総説)」254頁)

 

【中世教会法】

 

 教会法ius ecclesiasticumとは,広義においては,国家のような世俗的な権力が定めたキリスト教会に関する法とキリスト教会が定めた法を包括した概念であるが,狭義においては,キリスト教会が定めた法のことをいい,世俗法ius civileと対比される概念である。最狭義においては,カトリック教会が定めた法のことをいい,カノン法ius canonicumともいう。

 キリスト教会のうちでも,国家による法に比するほどの法体系を有するようになったのは,カトリック教会だけである。また,教派によっては,教会法とは言いながらも,信徒や聖職者の単なる信仰生活の心得に過ぎない場合もある。そのようなこともあり,教会法という場合は通常はカノン法を指すことが多い。
 狭義の教会法は信仰生活の領域だけでなく,教会行政の規範,聖職者・信者の権利義務を定める一般法としての役割を持つ。もっとも,国家法を中心とした現在の法秩序の下においては,多くの国では教会という自治的な団体の内部規範に過ぎず,法と言えるかについては疑義がある。しかし,歴史的には,ヨーロッパの法の発展について模範とされた事実も否定できないため,なお重要とされる。

 現行の法源は,1983年に制定された「教会法典」をメインとするほか,省令,回勅,公会議など権威のある会議の決定,判例などであるが,そのほかに聖書の記述や神学的な条理の解釈も重要視されることが,世俗法との大きな違いである。
 現在でも一部の国・地域では,特定の教派の信者に適用される身分法・民事法として,教会法は国家の定めた法律と同様かそれ以上の権威と効力を有する。

 教会法に関する裁判を行う権限は司祭に属するが,通常は教会裁判所に訴訟が係属する。ローマに控訴院,最高裁判所があり,原則として三審制が採用されている。日本では東京,大阪,長崎に常設の管区裁判所が設置されており,主に信者の婚姻無効確認請求の審判が行われている。
 教会裁判所の判事と検察官は,教会法博士の学位もしくは同等の学識を有する司祭から,司教が任命する。教会法の学位は教皇庁認定の教育機関で,教皇の名によって授与される。弁護士は,教会裁判所の判事任用資格,もしくは教会法の学識を有するカトリック信者(聖職者を含む)から司教が任命する。
 罰則を伴う裁判では,必ず弁護人をつけなければならないことになっている。また,被告人が弁護人を選任しないときは,判事は職権で公選弁護人を選任しなければならない。

 正教会においては聖伝の一部とされる。その内容は「聖規則」(ノモカノン)とよばれる,聖使徒規則などの初期キリスト教文書,および教会会議,公会議(全地公会)・(地方公会)などの決議,(聖師父・教父の書簡から規則として承認された部分)などの決議からなり,これがすべての基準となる。なお,これらの文書は特定時代に決められたもので,今日では適合しない条文などもあるが,すべてそのまま保存されている。各教会や主教は,聖規則全体の趣旨や精神を汲んで,適用についてはイコノミア的判断を下すわけである。また,これらに基づき,各地方教会で定めた規則,規律もあり,各地方教会で適用される。ローマカトリック教会のような「教会法典」は存在しない。

 

4 時効の法的性質に関する学説

 

 旧民法は,時効を訴訟法的な制度と位置づけていた。現行法の時効が実体法上の制度であることを前提として,どのような性格に位置づけるかは争いがある。
 これは,条文が,一方で「所有権を取得する」(162条),「消滅する」(167条)としているにもかかわらず,他方で「当事者が援用」(145条)がないと裁判上判決の基礎とできないとしていることをどのように調和的に解釈するかの問題である。

 

【不確定効果説】

 

解除条件

《結論》
 時効完成により権利の得喪は生じるものの,それは確定的ではなく,時効利益の放棄を解除条件として時効の効果は遡及的に消滅する。

 

《批判》

 消滅時効にかかった債務の弁済は時効負援用の表示であって,これにより債権が復活し,さらに弁済により消滅するという奇妙な論理構成となる。

 

停止条件説(判例・通説)


《結論》
 時効完成により権利の得喪は確定的に生じるのでなく,援用により初めて確定的にその効力が生じ,時効利益の放棄により時効の効果が確定的に発生していないことになる。


《理由》
 ①当事者の意思を尊重すべきである。②説明が簡便である。

 

【確定効果説・攻撃防御方法説】


《結論》
 時効の完成によって権利の得喪が実体法上,確定的に生ずるが,訴訟で取り上げてもらうためには訴訟法上これを主張する必要があり,援用は訴訟法上の攻撃防御方法にすぎない。

 

《理由》

 162条,167条等の権利の取得・消滅という文言を重視。


《批判》
 実体関係と裁判との間には矛盾が生じてしまう。すなわち,時効の完成により権利の得喪が実体法上確定的に生ずるが,当事者が援用しないかぎり裁判所は権利の得喪がないものとして裁判しなければならないから。

 

【訴訟法説・法定証拠提出説】
《結論》
 時効制度は実体法上の権利の得喪原因ではなく,訴訟法上の権利得喪の法定証拠と考える。時効の完成により権利の得喪が生ずるが,援用はその法定証拠を裁判所に提出する行為とみる。


《理由》
 時効制度は実体法上の権利の得喪原因ではなく,真の権利者や義務なき者を立証の困難から救済する制度である。


《批判》
 ①162条の文言に合致しない。
 ②民法典の中に訴訟法の規定が入っていると考えるのは奇妙である。

 

5 学説検討

 

 現行法上,「所有権を取得する」(162条),「消滅する」(167条)とされている以上訴訟法説は解釈上無理があるといえます。また,訴訟法説では145条の当事者の時効の援用は弁論主義によることを明らかにしたものとされますが,民事訴訟法にも明文規定のない自明の理である弁論主義を民法が規定したと考えるのは不自然である。
 ただ,権利得喪説に立っても存在理由の第二の部分は見過ごすわけにはいきません。
 訴訟法説・確定効果説に立つと実体と訴訟において食い違いが生じます。不確定効果説は,裁判外での「援用」を認めるのでその場合には実体法上統一的に扱われることとなります。
 上記の学説のうち,判例のとっているものは,不確定効果説+停止条件説である。時効期間が過ぎても,当事者がそれを主張(援用)しなければ時効の効果が生じないという考え方である。意思表示を重視する日本民法ならではの解釈といえます。実際は,どの説を採っても結論はあまり変わりません。説明の仕方が異なるだけである。
 不確定効果説を採った場合の考え方は,「なるべく時効は認めるべきではない」という感覚をもつと結論を出しやすいと思います。これは中世教会法的な良心規定の流れを汲んでいるからである。

 

以上。

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