田中嵩二の宅建士&賃貸管理士試験ブログ

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錯誤の改正

錯誤の改正

平成27年3月31日 民法の一部を改正する法律案が後の宅建士試験に与える影響について定期的に解説します。

 

新旧対照条文

現行

(錯誤)
第九十五条
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったとき、 表意者は、自らその無効を主張することができない。

 

改正案

(錯誤)
第九十五条
意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤

2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

 

改正案の内容

改正民法95条1項では、意思表示に対応する意思を欠くもの(表示行為の錯誤)と、表意者が法律行為の基礎とした事情についてその認識が真実に反するもの(動機の錯誤)に分けて規定しました。そして、動機の錯誤については、判例法理を明文化して、その基礎とした事情(動機)が法律行為の基礎とされていることが表示されているときに限り対象となるとされました。

また、表示行為の錯誤について、要素の錯誤に該当する場合にはその効力が否定されるという民法第95条の規律内容を基本的に維持した上で、「要素の錯誤」の内容を判例の考え方に従って具体化することによって規律内容を明確化しました。「要素の錯誤」の内容について、判例(大判大正7年10月3日民録24輯1852頁等)は、その錯誤がなかったならば表意者は意思表示をしなかったであろうと考えられ(主観的因果性)、かつ、通常人であってもその意思表示をしないであろうと認められる(客観的重要性)ものをいうとしており、学説上も支持されています。

 

審議の過程では、主観的因果性を「表意者がその真意と異なることを知っていたとすれば表意者はその意思表示をせず」と、客観的重要性を「通常人であってもその意思表示をしなかったであろうと認められる」と要件を明確化する案があった。しかし、国会に提出された最終の仮案は、「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」との表現となりました。

 

また、錯誤による意思表示の効果を取消しに改めました。その理由として、まず、判例最判昭和40年9月10日民集19巻6号1512頁)は、原則として表意者以外の第三者は錯誤無効を主張することができないとしており、相手方から効力を否定することができない点で取消しに近似していることが挙げられています。また、効果を無効とすれば、主張期間に制限がない点では表意者にとって取消しよりも有利になる(民法第126条参照)が、錯誤者を例えば詐欺によって意思表示をした者以上に保護すべき合理的な理由はないと考えられ、むしろ、錯誤者は自ら錯誤に陥ったのに対し、詐欺によって意思表示をした者は相手方に欺罔されて錯誤に陥ったのであり、錯誤者をより厚く保護することは均衡を失するとも考えられます。

 

さらに、3項では、表意者に重過失があったときは錯誤を主張することができないという民法第95条ただし書を原則として維持するとともに、その例外として、相手方が表意者の錯誤について悪意又は重過失がある場合と共通錯誤の場合には、表意者に重過失があっても錯誤を理由として意思表示を取り消すことができるとしました。これらの場合には、表意者の錯誤主張を制約する必要はないという有力な見解に従うものです。

 

4項では、、錯誤による意思表示を前提として新たな法律関係に入った第三者が保護されるための要件に関する規定が新設されました。これは、自ら錯誤に陥った者よりも詐欺によって意思表示をした者のほうが帰責性が小さく保護の必要性が高いのに、第三者が現れた場合に錯誤者のほうにより厚い保護が与えられるのはバランスを失することを理由に、民法第96条第3項を類推適用する見解に従い、これを明文化したものです。詐欺については、善意無過失の第三者を保護する主張が有力であり、錯誤による意思表示を前提として新たに法律関係に入った第三者についても、善意無過失であることを要件としました。

 

宅建試験への影響

意思表示の中でも錯誤は超頻出分野となっているので、改正後も要注意です。これまでの条文知識と判例理論はそのまま改正法でも引き継がれているのですが、新しい制度もありまずは条文を正確に暗記することが重要です。特に、表意者に重過失があった場合の例外規定、第三者保護規定、効果としての取消しの3点はこれまでにないものです。

 

 

法務省:民法の一部を改正する法律案

 

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