田中嵩二の宅建士&賃貸管理士試験ブログ

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意思表示の効力発生時期等の改正

意思表示の効力発生時期等の改正

平成27年3月31日 民法の一部を改正する法律案が後の宅建士試験に与える影響について定期的に解説します。

 

新旧対照条文

現行

(隔地者に対する意思表示)
第97条

1 隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
2 隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

 

(意思表示の受領能力)
第98条の2  意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に未成年者又は成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、その法定代理人その意思表示を知った後は、この限りでない。

 

 (隔地者間の契約の成立時期)
第526条

1 隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する。
2 申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。

 

改正案

(隔地者に対する意思表示)
第97条
1 意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
2 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。
3 意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

 

(意思表示の受領能力)
第98条の2
意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、次に掲げる者がその意思表示を知った後は、この限りでない。
 一 相手方の法定代理人
 二 意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方

 

(隔地者間の契約の成立時期)
第526条

削除

 

改正案の内容

民法97条の改正案(意思表示の効力発生時期等)

民法97条第1項は隔地者でなくても相手方がある意思表示一般に適用されるという通説に従って、「隔地者に対する意思表示」を「意思表示」に改めるものです。

 

審議の過程では、判例における基本的な考え方(最判昭和43年12月17日民集22巻13号2998頁等)に従い、意思表示が相手方に到達したと言える場合の例示として、相手方等の住所や相手方等が指定した場所に通知が配達されたときとする規定を新設する案が示されていましたが、国会に提出された仮案からは外されています。

 

民法97条2項に、「到達」が生じたとは言えない場合であっても、到達しなかったことの原因が相手方側にあるときは到達が擬制される旨の新たな規定が設けられました。従来から、相手方側が正当な理由なく意思表示の受領を拒絶し、又は受領を困難若しくは不能にした場合には、意思表示が到達したとみなす裁判例など、意思表示が相手方に到達したとは必ずしも言えない場合であっても、相手方側の行為態様などを考慮して到達を擬制する裁判例が見られることを踏まえたものです。

例えば、いずれも意思表示が書留内容証明郵便で郵送された事案で、①相手方の同居人が本人の不在などを理由に故意に受領を拒絶した事案で到達を認めたもの(大判昭和11年2月14日民集15巻158頁、大阪高判昭和53年11月7日判タ375号90頁)、②相手方が不在配達通知書により書留内容証明郵便が送付されたことを知っており、受領も容易であったのに受領に必要な行為をしなかったために留置期間満了により返送されたという事案で、遅くとも留置期間満了時に到達したと認めたもの(最判平成10年6月11日民集52巻4号1034頁)などがあります。

意思表示の到達が擬制されるための要件について、まず、表意者側の要件として、相手方に通常到達すべき方法で意思表示を発信したことを要するものとしています。相手方に通常到達すべき方法で発信したのに、相手方の側の事情で到達しなかったのであれば、到達が擬制されてしかるべきであり、その要件を加重する(例えば、ほかに意思表示を到達させる手段がないことを要件とする)必要はないと考えられます。
また、相手方の要件として、正当な理由がないのにその到達に必要な行為をしなかったことを要件としています。住所における郵便物の受領の拒絶や、不在配達通知書を受け取ったのに再配達の依頼や郵便局に赴いて受領することをしなかった場合がこれにあたります。「正当な理由」の有無を判断するに当たっては、既知の者からの意思表示(例えば、既に契約関係にある者からの意思表示)であるか、未知の者から内容の不明な郵便物が配達された場合であるかなど、個別の事実関係に即して判断がされることになると考えられます。

到達が擬制される時点は、その意思表示が通常到達すべきであった時です。これによれば、同居人等による受領拒絶があった場合はその時点で到達が認められることになると考えられます。また、不在配達通知書が残された事案では、その後受領に必要と認められる相当の時間が経過した時に到達が擬制されることになります。

 

民法97条3項には、現行法で2項にあったものがスライドされ、さらに次のように改められました。「行為能力の喪失」には保佐及び補助が含まれることが異論なく認められていることから、これをより適切に表現するために「行為能力の制限」に改めました。

「行為能力の喪失」という文言が表意者について後見が開始されたことのみを指すとすると、行為能力の制限の程度としてはより軽度である保佐又は補助が開始された場合は意思表示の効力が影響を受けると解する余地が生ずることとなって不当であるから、「行為能力の喪失」に保佐又は補助の開始が含まれると解すべきであり、このことをより適切に表現するための改正です。

また、表意者が意思表示の発信後意思能力を喪失した場合であっても意思表示の効力は影響を受けない旨の規律が付け加えられました。

同項の趣旨は、表意者の死亡等の事由を知らない相手方が、意思表示が有効であると考えて不測の損害を被ることを防ぐ点にあるとされており、この趣旨は、意思表示の発信後に表意者が意思能力を欠くに至った場合にも妥当することから、意思能力に関する規定を新たに設けることに伴い、規定を付け加えるものです。

 

民法98条の改正(意思表示の受領能力)

意思表示の受領能力に関する民法第98条の2に、相手方が意思表示の受領時に意思能力を有していなかった場合には意思表示を相手方に対抗することができないという規律が付け加えられます。同条は、意思表示の受領者に当該意思表示の内容を了知し得る精神的能力が具備されていない限り、意思表示の効力を発生させるべきでないという趣旨に基づくが、この趣旨は、受領者が意思能力を欠く場合にも妥当すると考えられることから、意思能力に関する規定を新たに設けることに伴って、規定を付け加えることが必要となります。もっとも、一時的に意思能力を欠く状態であった相手方がその後に意思能力を回復してその意思表示を知った場合には、表意者は意思表示の効力を主張することができてしかるべきなので、民法第98条の2ただし書にならって、その旨の規定を設けることとなっています。

 

民法526条の削除(隔地者間の契約の成立時期)

隔地者間の契約の成立時期について発信主義を採っている民法526条1項を削除し、契約の成立についても原則として到達主義(同法第97条第1項)を採用することになります。契約の成立について発信主義を採った趣旨は、早期に契約を成立させることで取引の迅速を図ることにありました。しかし、通信手段が高度に発達した現代においては、承諾通知が延着したり、不到達になる現実的な可能性は低く、また、発信から到達までの時間も、当事者が短縮を望めば様々な手段が提供されており、上記のような理由で、到達主義の原則に対する例外を設ける必要性が乏しいと指摘されています。現に、契約に関する国際的なルールなどにおいても、契約の成立について到達主義をとる例が多い。そこで、現代社会に適合する規律を設ける観点から、承諾についても意思表示の効力についての原則どおりに到達主義を採用することとしました。なお、電子商取引における契約の成立時期については、既に民法の例外として到達主義が採用されています(電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律4条)。

なお、予め当事者間で、当該契約の成立時期について発信主義を採用する合意をすることは可能です。

 

宅建試験に与える影響

意思表示の効力発生時期について、宅建試験ではほとんど出題されていません。宅建業者が行う重要事項説明が対面方式しか許されていないこと、比較的高価な商品となることから、実際に当事者または代理人が立ち会った上での契約が普通です。したがって、メインの契約の場面で意思表示の効力発生時期が問題となることはほとんどないから出題もされないのでしょう。

ただ、宅建業法における自ら売主制限のひとつであるクーリング・オフについて、買主からの解約の主張と効力発生時期は、発信時となっており、この点については頻出です。しかし、おそらくこの宅建業法の規定は上記の民法改正とは趣旨を異にするので(宅建業法のこの規定は消費者保護という趣旨があります)、民法が改正されたからといって連動して改正されることはないでしょう。

仮に出題が想定される場面として考えられるのは、滞納賃料の請求において配達証明内容証明郵便を出す場面です。あくどい賃借人がわざと内容証明郵便を受け取らない場合、追加された規定により(これまで判例上認められていましたが)、通知が賃借人に到達されたとみなされるという点が実務に関連して出題の可能性があるでしょうね。

 

 

法務省:民法の一部を改正する法律案

 

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