田中嵩二の宅建士&賃貸管理士試験ブログ

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自己契約及び双方代理等の(民法108条)の改正

自己契約及び双方代理等の(民法108条)の改正

平成27年3月31日 民法の一部を改正する法律案が後の宅建士試験に与える影響について定期的に解説します。

 

新旧対照条文

現行

(自己契約及び双方代理)
第108条  同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

改正案

(自己契約及び双方代理等)
第108条
同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
2 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

 

改正案の内容

現行の108条には自己契約と双方代理の禁止規定があります。自己契約とは、特定の法律行為につき当事者の一方が相手方の代理人になることをいいます。たとえば、不動産の売却の依頼を受けた代理業者自身がその不動産を購入することがその典型例です。それに対して、双方代理とは、特定の法律行為につき1人の者が双方の代理人になることをいいます。たとえば、不動産を売却したい人(売主)と、不動産を購入したい人(買主)がいて、両者の代理人になってその不動産売買契約を結んでしまうなどが典型例です。

 

改正案は、民法108条本文が自己契約及び双方代理を対象とする規定であることをより明確にするとともに、自己契約及び双方代理の効果について、これを無権代理と同様に扱って本人が追認の意思表示をしない限り当然に効果不帰属とするという判例法理(最判昭和47年4月4日民集26巻3号373頁等)を明文化するものです。

 

また、自己契約及び双方代理の性質上、代理行為の相手方との関係で表見代理の規定の適用が問題となることはありません。他方、代理行為の相手方からの転得者との関係では、本人が転得者の悪意を主張立証した場合に限り本人は代理行為についての責任を免れることができるとする判例(上記最判昭和47年4月4日等)が引き続き参照されることが想定されています。

 

ただし書きにある、本人の許諾があった場合と債務の履行に関する場合の2つの例外規定は改正案でもそのまま維持されています。

 

この点、審議の過程においては、民法108条ただし書の規定のうち「債務の履行」に関する部分を「本人の利益を害さない行為」に改めるとする案もありました。債務の履行には裁量の余地があるものもあるため、一律に本人の利益を害さないものであるとは言えず、同条ただし書がもともと本人の利益を害さない行為について例外を認める趣旨の規定であることを踏まえ、端的にその旨を明文化するというものです。

ただ、国会に提出された改正案にはこの部分が反映されていません。

 

改正案108条には新たに2項が追加されました。

自己契約及び双方代理には該当しないが代理人と本人との利益が相反する行為について、自己契約及び双方代理の規律を及ぼすことを示すものです。一般に、自己契約及び双方代理に該当しなくても代理人と本人との利益が相反する行為については民法第108条の規律が及ぶと解されており(大判昭和7年6月6日民集11巻1115頁等参照)、この一般的な理解を明文化するものです。この利益相反行為に該当するかどうかは、代理行為自体を外形的・客観的に考察して判断するものとされています(最大判昭和42年4月18日民集21巻3号671頁等参照)。

たとえば、AがBの代理人として、Aの金融機関Cからの借入金債務について本人B所有の不動産上に抵当権を設定する契約を、Cとの間で締結する行為は、たとえAがこの借入金をBのために用いる場合であっても、利益相反行為にあたります。それに対して、AがBの代理人として、Bの借入金債務についてB所有の不動産上に抵当権を設定する契約を、金融機関である債権者Cと締結する行為は、たとえAがこの借入金をA自らのために着服する意図がある場合であっても、利益相反行為には当たらないことになります。もちろん、代理権濫用には該当する可能性があります。

 

代理権の濫用規定(民法107条)の新設 - 田中謙次の宅建試験ブログ

 

宅建試験への影響

自己契約及び双方代理については、宅建試験では超頻出分野です。代理の中でも最もよく出題されているといってもよいでしょう。したがって、判例法理が条文になっただけであっても、要注意です。特に、2項にある利益相反行為については、親権者や取締役の規定を範にしたものであるが、新規に民法総則に規定された点は、やはり見過ごすことはできません。宅建業においては、(良し悪しは抜きにして)当事者双方から媒介や代理契約を締結することが慣例となっており、売買と交換に関しては国土交通省お勧めの約款もあるのであり、何をもって利益相反行為になるのかは、今後の判例の展開により充実化して行くのかと思われます。もちろん、実務では判例の展開など待っていられないので(笑)、予防的にしっかりと契約書に明記しておくべきでしょう。

何はともあれ、宅建試験対策としては、まずはしっかりと条文を暗記して、そのうえでこれまでの判例を再確認しておく必要があります。

 

 

法務省:民法の一部を改正する法律案

 

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