田中謙次の宅建試験ブログ

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取消の効果の(民法121条)の改正

取消の効果の(民法121条)の改正

平成27年3月31日 民法の一部を改正する法律案が後の宅建士試験に与える影響について定期的に解説します。

 

新旧対照条文

現行

(取消しの効果)
第121条
取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

 

改正案

(取消しの効果)
第121条
取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。

 

(原状回復の義務)
第121条の2
1 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。
2 前項の規定にかかわらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては、給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。
3 第一項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする。

 

改正案の内容

現行民法121条ただし書きが削除され、新たに121条の2という規定が追加されます。

同条1項において、法律行為が無効であったり、取り消された場合の原状回復については、民法第703条及び第704条は適用されないという見解がが有力に主張されていたことから、新たな規定を設けることでこれを明確にしました。具体的には、法律行為によって生じたとされる債務の履行として給付がされたが、その法律行為が無効であった場合や取り消された場合には、その給付について法律上の原因がなかったことになるから、給付をした当事者は、不当利得返還請求権に基づいてその返還を請求することができることになります。しかし、民法703条及び704条は一方当事者が相手方に一方的に給付を行う場合を主として想定して設けられた規定であり、法律行為が無効であったり取り消されたりした場合、特にその法律行為が有償契約である場合の原状回復には適用されないという考え方が有力に主張されており、現状ではこの場合の法律関係が不明確な状況にあります。

この規定は、民法第703条及び第704条に対する特則となります。


同条2項においては、無効な法律行為が無償契約である場合に、善意の受領者がいわゆる利得消滅の抗弁を主張することができることを定めるものです。すなわち、受領者が、給付の受領当時、法律行為が無効であること又は取り消すことができることを知らなかったときは、善意であった間に失われた利得について返還義務を免れ、悪意になった時点で現に利益を受けていた限度で返還すれば足りることを定めています。善意の受領者は、その給付が自分の財産に属すると考えており、費消や処分の後に現存利益を超える部分の返還義務を負うとするとこのような期待に反することになるからです。

なお、善意の受領者が利得消滅の抗弁を主張することができるのは、無効であった法律行為が有償契約以外の法律行為である場合に限られます。有償契約が無効又は取消可能であったとしても、それに基づく双方の債務は、当初は対価的な牽連性を有するものとして合意されていたものであるから、その原状回復においても、主観的事情や帰責事由の有無にかかわらず、自分が受領した給付を返還しないで、自分がした給付についてのみ一方的に返還を求めるのは、均衡を失し公平でないと考えられるからです。

 

同条3項においては、返還義務者が法律上の原因がないことについて悪意であった場合には本来利得消滅の抗弁を主張することができず、受領した給付全額についての返還義務を負うはずであるが、現行民法121条ただし書によれば、制限行為能力者はたとえ悪意であっても返還義務の範囲が現存利益に縮減されます。制限行為能力者については、適切な財産の管理能力がなく、浪費などによって給付による利得を失ってもその返還義務を負担させられないという考慮に基づくものであると考えられるが、改正民法121条の2第3項では、このような趣旨に鑑みて、同条ただし書を維持するものとしています。また、当事者が意思能力を欠く場合にも、同様に財産の管理能力がなく、同条ただし書と同様の趣旨が妥当することから、意思能力に関する規定を設けることに伴い、意思能力を欠く状態で法律行為をした者についても、同様にその返還義務を軽減しています。

 

審議の過程では、返還する金銭の利息支払や金銭以外の返還対象物から生じる果実の引渡まで義務付けるものであるかどうかについても、明記する案があったが、国会に提出された仮案からは削除されました。今後も解釈に委ねられます。

 

宅建試験への影響

無効・取消の効果およびその上での不当利得返還については、法理論上の対立・学説上の有力な反対説もあるからなのか、宅建試験でも直接的な形での出題はありません。特定物売買において契約締結前に特定物が滅失した場合に無効であるとすることを前提にした問題は出題されたことがあります。かなりリスキーな出題をしてくるなあと思いましたが…。

新しい民法121条2項で、これまで対立があった点について条文で明確化されたので、条文知識を問う出題は十分に考えられます。

なお、実務上はそれほど問題になる改正ではないでしょう。法律行為が無効となることは、そんなに多くあることではないからです。実際に、詐欺や脅迫等により取消され無効となった場合の返還義務等について、たとえ契約に事前に定めたところで、そのようなことをする輩から代金や相当額の返還が叶うことは現実的ではないでしょう。

 

法務省:民法の一部を改正する法律案

 

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