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権利能力なき社団の法理

権利能力なき社団の法理

 

1 論点の整理

 

 2005年に会社法が、2006年に「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」が成立したことにより、我が国の団体・法人法の基本的体系が変容したといえる。すなわち、会社法に代表される営利法人と、一般法人法により代表される非営利法人の法人二分体系である。
 一般法人法は、非営利法人について定め、従前の民法公益法人に関する規定は削除された。従前の民法が公益目的の社団または財団につき主務官庁の許可(許可主義)を公益法人の成立要件としていたのに対して、一般法人法は会社法と同じく準則主義による非営利法人の成立を認めている。一般社団法人または一般財団法人のうち、公益目的事業を行うものは、行政庁(内閣総理大臣または都道府県知事)による公益認定を受けて、公益社団法人または公益財団法人となることができる。公益法人法がそれを定める。
 従来の法人法体系においては、許可主義による公益法人の成立は民法、準則主義による営利法人(会社)は商法及び有限会社法によっていた。そして、公益法人の公益目的および営利法人の営利目のそれぞれを限定的に解釈するのが通説であったため、団体目的による団体の整序につき欠缺が生じていた。つまり、営利目的が営利事業及び利益配当の意味に限定的に解釈されたことは、公益目的の限定解釈と合わせて、その中間目的の団体の存在を生ずることになる。
 この法律の隙間を埋めるための方策のひとつが権利能力なき社団の法理である。
 ちなみに、同法理以外にも、公益法人の枠を広げるという方法や、特別法による救済措置がある。ただ、その特別法の代表格である2001年に成立した中間法人法は、一般法人法施行の日に廃止されている。一般法人法は中間目的の団体を含む非営利目的の団体一般につき、準族主義による法人成りを承認するものだからである。
 なお、NPO法人については、中間法人法のように廃止にはならず、存続している。NPO法(正式には特定非営利活動促進法)は、中間法人法とともに、従前の法人制度の欠缺を埋めるものであった。すなわち、中間法人法は、公益目的と営利目的の解釈上の隙間に陥った団体について、NPO法は公益法人設立許可のハードルの高さから法人格取得の途を塞がれていた団体について、法人成りの可能性を開くものであった。したがって、一般法人法の成立により中間法人法は廃止されるが、NPO法はなお存続する意義がある。NPO法人は、法益法人法に基づく公益社団法人にも吸収されえない。なぜなら、公益認定手続がNPO法人の設立認証に比べて煩雑であり、また、公益認定基準が比較的厳格だからである。
 以上のような制度的背景を踏まえ、権利能力なき社団の法理の存在意義と要件と効果を検討する。


2.権利能力


(1) 意義


 権利能力とは,権利を得,義務を負いうる能力を意味し,近代の自然法思想に基づき,すべての個人に強行的に与えられているものである。自然人の権利能力に関する規定は強行規定であり,契約により制限できないことを意味する。民法はこの権利能力のことを私権の享有という(民法1条の3)。具体的には,肉体を持つ自然人と,国・都道府県・会社・学校のような法人との二つに分かれる。
 権利能力のないものの行った行為は,権利・義務が帰属しない。

 

(2) 法人における権利能力


① 性質による制限


 法人の権利能力は,法人学説が擬制説から実在説に推移するに従って,次第にその範囲を拡大した。近時の法理においては,男女の性・年齢・肉体などを前提とする権利義務(親権・夫権・生命権・肉体上の権利)は,法人の本質上享有し得ないことは当然であるが,その他の権利義務は,法人の目的からみて適当なすべてのものを享有することができるとする(我妻栄民法総則」153頁)。

 

② 法令による制限


 権利能力の範囲について法律の制限に従う点に関しては,自然人と法人との間に何等の差はない。ただ,自然人の権利能力の制限は,必ず法律によるべきであるのに対し,法人の権利能力の制限は,法律および命令の規定でなしうる点に差がある。その趣旨は,自然人の権利主体たる価値は,法律によらなければ制限し得ないほど重大であるのに対し,法人の場合は命令によることができるということである。しかし,現行法上一般的に法人の権利能力を制限した法令はない。

 

③ 目的による制限


 法人とは一定の社会的作用を担うために設立される存在である。故に,法人について定められた目的を中心に活動する社会的実在でなければならない。従って,その権利能力の範囲もまた,この目的の下に制限されることも当然である(民法34条)。
 この点に関して,自然人の場合は権利主体としての社会的価値は平等であるとすることが現代法の大前提であるから,その権利能力に広狭があってはならないが,これに対し,法人の社会的価値には差異があるから,その権利能力に広狭があってしかるべきである。
 ただ,法人の定めた定款または寄付行為における「目的」がそのまま法人の目的となることではない点には注意を要する。定款・寄付行為に記載された目的は,法人の担当する社会的作用を立言しただけであり,この作用を完うするために,社会において行動をなし,適当な行動の範囲内において権利義務を取得するのである。したがって,権利能力の範囲を決定する「目的の範囲内」というのは,目的として挙げられた事項に限るのではなく,この目的を遂行するに適当な範囲内の全般にわたるべきである。


3.権利能力の始期・終期


(1) 自然人


①権利能力の始期は出生(胎児が母体から全部露出すること)である。

②出生届の有無は権利能力の取得に関係ない。

③自然人の権利能力は死亡のみによって消滅する。

 

(2) 法人


 権利能力の始期は,それぞれ法律に定められており、たとえば、一般社団法人及び一般財団法人は、その主たる事務所の所在地において設立の登記をすることによって成立し(一般法人法22条・163条)、営利法人である株式会社も同様に設立の登記をすることによって成立します(会社法49条)。


4.権利能力の存在理由


(1) 自然人の場合


 すべての自然人すなわちすべての生きている人は,平等の権利を有する(憲法14条)。この権利がすべての自然人に認められていることは歴史的意義を有する。フランス革命を一転機として,すべての個人は,一般社会生活を営む範囲,すなわち私法関係の範囲において,みずから財産を有し,契約関係の主体となり,親族関係に立ち,その生命身体の安全を保護される資格のあるものとされ,年齢・性・宗教・階級・家格等による権利能力の不平等はすべて撤廃されることになった。つまり,自然人に権利能力が法律上認められていることの意義は「平等」に与えられているという点にあり,他人の支配に属さない自主独立の地位を保障しようとする理念に基づいていることにある。

 

(2) 法人の場合


 近代における個人自由主義の最高潮の時代における民法は,権利能力を有するものも個人に限り,団体を,最小限度において,例外的に個人になぞらえられるものとした。これは中世におけるギルドに対する反発に影響することは疑えない。しかし,19世紀から20世紀にかけての個人主義経済組織の発展は,おのずから,その社会に,団体の独自の存在を認めねばならないようになり,現代の法律組織においては,団体もまた個人とならんで,権利の主体たりうるもの,すなわち権利能力を有するもの,と考えられるに至った。したがって,法人における権利能力付与の理由は,資本主義経済発展に伴う必然と必要性といえよう。


5.権利能力なき社団


(1) 権利能力なき社団の意義・成立要件


 権利能力なき社団とは,団体であって,その実体が社団であるにもかかわらず,法人格を有しないものをいう。
 世の中の団体や社団が,すべて権利能力がある(法人格があるとも言います)わけではない。たとえば,大学のサークルや小学校のPTAなどは社団としての実質を備えてはいるが,団体自体に権利能力があるわけではない。会社のように営利を目的とした社団として登記を受けているわけでもなく,公益法人として主務官庁の許可を受けているわけでもないからである。これらの団体は権利能力がないので法人ではない。しかし,社団としての実体はあるので,社会において法人と同じような活動をしている。このような団体が団体として取引などをした場合,法律上権利能力がないことから問題が生ずる。特に,権利能力なき社団と取引関係に入った人の保護が問題となる(取引の安全の保護)。法人格を有してはいないが,法人格を有しているのと同じように扱った方が取引の相手方の保護につながる場合もあり得る。そこで,権利能力なき社団なる概念が必要となる。

 

(2) 権利能力なき社団の成立要件(最判昭和39年10月15日 民集 第18巻8号1671頁)


 法人に非ざる社団の成立要件と法人に非ざる社団の資産の帰属が争点となった事案について、最高裁は、「①法人に非ざる社団が成立するためには、団体としての組織をそなえ、多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定していることを要する。②法人に非ざる社団がその名においてその代表者により取得した資産は、構成員に総有的に帰属するものと解すべきである」とした。

 上記判例から抽出される権利能力なき社団の成立要件は、
① 団体としての組織を備えていること
② 多数決の原則が行われていること
③ 構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続すること
④ 代表の方法,総会の運営,財産の管理など団体としての主要な点が確定していること
 の4点となる。

 

(3) 権利能力なき社団財産の帰属


 権利能力なき社団は,権利義務の帰属主体たりうる地位(法人格)がないことから,その財産の帰属が問題となる。共同所有形態として共有となるのか,合有となるのか,総有となるのかの争いである。
 なお、共有とは,構成員に具体的な持分が認められるものであり,民法上の原則的な共同所有の形態である(249条)。この形態の場合は,持分の処分や分割請求などが認められている。合有とは,潜在的な持分はあるが,具体的な持分が認められないような共同所有の形態である。民法上の組合の形態で所有する財産がこれにあたる。潜在的な持分があるとは,脱退時に払い戻しが認められるだけであるという意味である。従って,持分を譲渡したり,分割請求することは認められない。総有とは,潜在的な持分すら観念し得ない共同所有の形態をいう。

 

① 総有説(最判昭和39年10月15日,同昭和49年9月30日)


 社団構成員は,総会を通じてその管理にかかわり,ここの財産について持分権・持分払戻請求権・財産分割請求権が否定される。
 その根拠としては、権利能力なき社団と社団法人とを全く同一に扱うことはできないが,しかし,権利能力なき社団の実体から,法人の所有形態とは異なる総有の観念を採用することによって社団自体に法人格を認めたのと同じ効果を引き出すことができる。
 しかし、総有の概念を用いることにより,権利能力なき社団が持分のない団体であるという一義的な断定を行ったが,これによって,かえって社団固有の性格が没却されてしまうことになり,むしろ,団体の性格に応じ合有もしくは総有の各形態によって捉えるべきである(星野)。

 

②合有説


 社団構成員が全体として合有的に所有するとする。

 

③ 単独所有説


 社団自体の単独所有であるとする。

 

④ 最判昭和49年9月30日 民集 第28巻6号1382頁


 労働組合の下部組織が事実上分裂した場合において離脱組合員の結成した新組合が右下部組織の財産につき権利を有しないとされた事案において、最高裁は、「D労働組合の下部組織として同組合との間に判示のような関係に立つ独立の権利能力なき社団である地方本部において、所属組合員の約三分の二が組合の運動方針に反対して集団的に組合を離脱し新組合を結成したため、地方本部が事実上分裂したとみられる場合であつても、D労働組合そのものが統一的組織体としての機能を失わず、かつ、地方本部に残留した組合員が同組合の方針に従い引き続き地方本部としての団体活動を継続しているときは、右新組合は、地方本部の財産につき持分ないし分割請求権を有するものということはできない」とした。


(4) 社団構成員の負担すべき責任


 権利能力なき社団の代表者などが社団の名においてした取引によって生じた債務は誰に帰属するのか。つまり,権利能力なき社団が債務の帰属主体になれるのかどうかが問題となる。また,債権者は,債務不履行などの場合に,構成員個人の財産に強制執行することが可能か。

 

① 有限責任説(通説)


 出資を限度とする有限責任を負うとする。
 その根拠としては、社団の理論に従えば有限責任という帰結になることが挙げられる。
 しかし、権利能力なき社団には営利目的のものもあれば公益に関わるものもあり,一般論を展開するのは無理がある。

 

② 個別説(阿久澤,有力説)


 権利能力なき社団の目的ないし性質によって個々具体的に考えるとする。
 その根拠としては、第一に、社団財産の独立性から画一的に結論を導きだすべきではないこと。
 第二に、法人における責任財産形成の制度システムにも柔軟性があること。
 第三に、社団債権者保護の要請である。

 

③ 営利・非営利区別説


 権利能力なき社団を営利目的をもつものと非営利を目的とするものとに一応分けて,有限責任は,この非営利団体ないしそれに準ずる一定の中間目的をもつ遮断でのみ可能であるとする。
 その根拠としては、第一に、構成員に利益の配分があること。利益の存するところに損失もまた帰する。
 第二に、営利目的の場合,株式会社等にすれば無限責任を回避できるのだから,営利目的の権利能力なき社団の構成員について無限責任を認めても酷ではないことが挙げられる。

 

④ 社団型・組合型区別説


 営利・非営利という目的による分け方は必ずしも適切ではなく,むしろ潜在的持分の有無により,構成員が潜在的持分のある社団法人型社団には有限責任を認め,潜在的持分のある組合型社団には有限責任を認めるべきではないという考え方。

 

⑤ 最判昭和48年10月9日 民集 第27巻9号1129頁


  権利能力のない社団の取引上の債務と社団構成員の責任が争点とされた事案において、最高裁は、「権利能力のない社団の代表者が社団の名においてした取引上の債務は、社団の構成員全員に一個の義務として総有的に帰属し、社団の総有財産だけがその責任財産となり、構成員各自は、取引の相手方に対し個人的債務ないし責任を負わない」とした。


(5) 不動産の登記方法


 権利能力なき社団は法人格がないだけで,実体は法人と変わらないので,社団法人と同様に扱おうとするのが判例・学説の大勢であることは既に述べた。したがって,権利能力なき社団の有する不動産であっても,その所有形態は前述の通り,総有となり,法人とほぼ同じように扱うことになる。しかし,不動産の場合は,公示の方法が動産と異なり登記であることから,その名義人として社団名で登記ができるか問題となる。

 

① 否定説(通説・判例


 代表者が構成員全員からの受託者として個人名義で登記するか,構成員の共有名義で登記するしかないとする。
 その根拠としては、第一に、権利能力なき社団では,社団自体に財産が帰属するのではないこと。公示にあたっても,社団名義の登記はできない。代表者の肩書を付した登記も実質上社団名義の登記を許すことになるから認められない。
 第二に、登記官には実質的審査権がないこと。肯定する見解によると虚無の法人格なき社団名義の登記がなされ,ひいては登記制度への信頼を失う危険がある。

 

② 肯定説


 肩書付代表者名義または社団名義の登記も可能であるとする。
 その根拠としては、第一に、民事訴訟法29条は,権利能力なき社団に当事者能力を認めていること。私法上の法主体になる地位を認めているといえる。
 第二に、社団財団は個人財産と区別され独立性があること。否定説によると,登記名義人の代表者個人に対する債権者が,団体財産に執行する危険がある。
 第三に、虚無人名義の登記の発生という問題は,権利能力なき社団なき社団に限らないことなどが挙げられる。

 

(6) 代表者が自己名義で第三者に不動産を売却した場合の処理


 不動産の所有権は,社団構成員と総有となる(通説・判例)。すなわち,登記上の名義と実体が異なる。登記に公信力がないので,第三者が登記名義を信じ取引した場合,所有権等取得できないのが原則である。そこで,第三者の取引の安全を保護するための方策として外観法理(民法94条2項等)の類推適用の可否が問題となる。

 

①否定説


 権利能力なき社団は,実務では代表者個人名義の登記しかできない。虚偽の外観の作出は,いわば社団側に強いられている。したがって,本人である社団に帰責性を認めることができず,外観法理の適用の前提を欠く。

 

②肯定説


 権利能力なき社団の構成員も,①背信行為にでるような代表者を選出した点,および,②複数の構成員を代表者にして共有名義にする選択もあったわけであるから,本人である権利能力なき社団にも帰責性を認めることができる。


(7) 無権代表者が代表者として(権限あり表示して)第三者に売却したような場合の処理


 定款等の内部規則により,代表者に不動産を処分する権限が与えられているか否かで,理論構成を異にする。

 

①代表者に権限がない場合


 代表者のなした行為は無権代表となる。第三者がこの点につき善意であった場合には,一般社団法人及び一般財団法人に関する法律民法の特別法)77条5項を類推適用して,第三者を保護し得ると解する。

 

②代表者に権限があった場合


○93条但書類推適用説(判例・多数説)


 第三者が代表者の意図を知っていたか,無過失によって知らなかった場合には,民法93条但書を類推し,社団が無効を主張し得るとする。
 その根拠としては、第一に、代表者に代表権があり,法律効果を社団に帰属させる意思で件名を行っており,心裡留保の規定を直接適用できる場面ではないこと。
 第二に、代表者は,私利を図り本人である社団に経済的利益を帰属させる意思がないという真意を有すること。この経済的帰属に着目すると真意と表示に不一致がある。
 第三に、社団財産を犠牲にしてまで,悪意・有過失の第三者を保護する必要性はないことなどが挙げられる。

 

○信義則説


 第三者が代表者の背信的意図を知っていたかまたは知らないことに重大な過失がある場合には,第三者は信義則上,本人の効果帰属を主張できない。
 その根拠としては、第一に、代理人の背信行為による危険は本人に負担させるべきであること。
 第二に、軽過失の第三者は保護に値する。なぜならば,第三者に背信的意図の有無を調査させるのは代理制度の運用を阻害するからであることが挙げられる。

 

(7) 当事者能力


 権利能力なき社団は,その名において経済取引その他の社会的活動を営んでいる。そして,これらの活動を通じて,社団と第三者との間に紛争を生ずることは避けられず,訴訟による解決が必要となることもある。この場合,社員各自を相手方とするよりも,これまで取引の相手方としてきた社団自体を相手に訴訟することができれば便宜である。
 そこで,民事訴訟法29条は,「法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは,その名において訴え,又は訴えられることができる」と規定し,能動的・受動的当事者能力を認めている。

 

以上。

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