意思無能力の新設
意思能力の改正
平成27年3月31日 民法の一部を改正する法律案が後の宅建士試験に与える影響について定期的に解説します。
新旧対照条文
現行
なし
改正案
第二節 意思能力
第三条の二 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
改正案の内容
契約等の法律行為を有効にするためには、当事者がその法律行為を行った結果(法律行為に基づく権利義務の変動)を理解するに足りる精神的能力を備えている必要があります。なぜなら、これらの行為が法律上の効果を生じるのは「各個人は、原則として自己の意思に基づいてのみ、権利を取得しまたは義務を負う」という近代法の根本原理に基づき、当事者に意思能力がない場合には、その行為はその者の意思に基づくとはいえなくなるからです。
判例上も、意思能力を欠く行為は無効であるとしており(大判明治38年5月11日民録11輯706頁)、学説上も争いがありません。また、高齢化等の進む社会状況の下で、意思能力の有無をめぐる法的紛争が現実にも少なくないことを踏まえ、新たに規定を設けるべきであるという考え方もあり、条文に明記されました。
ただ、意思能力の定義規定は作られず、これまで通り、解釈に委ねられます。
宅建試験への影響
意思無能力者の行為を有効であることを前提として取り消すことができる旨のひっかけ問題が過去に3回ほど出題されています。また、最近の問題では、この改正案を踏まえて、民法の条文にあるか否かの形式の問題も出題されています。
おそらく、制限行為能力制度との比較という点で再び出題されることが予想されます。
実務的には、高齢化社会が進み認知症の方が不動産取引を行った場合の法的保護が社会問題となっています。一般財団法人 不動産適正取引推進機構の機関紙である「RETIO」でも 2011年 1 月の80号で、研究理事・調査研究部長の福島 直樹先生による「認知症患者の不動産取引をめぐる
最近の判例動向」という論文が発表されています。
ただ、挙証責任の問題があるので、劇的に実務で活用されるようになるとは思われません。