田中嵩二の宅建士&賃貸管理士試験ブログ

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諸事情で行方不明の父が死亡し3か月が経過していた場合は相続放棄ができない?

Q.諸事情で行方不明の父が死亡し3か月が経過していた場合は相続放棄ができない?

 

A.できます。相続の開始があったことを知らない場合はたとえ3か月経過したときであっても単純承認したものとはみなされません。

 

平成28年度宅建試験に出題された問題をピックアップして解説して行きます。

 

相続したくない場合はどうすれば?

民法は,被相続人の死亡により相続が開始することによって,被相続人の一身専属の権利義務を除く一切の権利義務が相続人に法律上当然に帰属するとして,相続人に固有財産におけると同一の注意義務をもって管理する義務を認めつつ、一定の熟慮期間内に全面的・無条件的に権利義務の承継を認めるか(単純承認),承継した相続財産のみに責任を制限して債務の承継を承認するか(限定承認),全面的に承継を否認し,相続人となることを拒否するか(放棄)を選択する権利を認めています。これは近代法一般の,相続人に被相続人の権利義務の承継を強制せずその意思を尊重するという傾向に沿い,かつドイツやフランスの大陸法理に拠っているものです。

 

いつまでに承認・放棄の手続を行うの?

民法915条は、相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から、3か月以内に、相続について、単純もしくは限定の承認または放棄をしなければならず、もしその期間内にその手続をとらないと、単純承認をしたものとみなされると定めています。この3か月は時効期間ではなくて法定除斥期間と呼ばれており、この期間の経過により,当然に放棄・限定承認の選択権が失われ,単純承認をなしたものとみなされます。ただし、この3か月の期間は利害関係人または検察官の請求により家庭裁判所の審判によって伸長されます。相続人は、承認または放棄の前に、相続財産の調査ができます。また、その期間は、相続人が「自己のために相続の開始があったことを知った時」から起算されます。

 

相続人が、相続財産の建物の不法占拠者に明渡しを求めると単純承認をしたことになる?

なりません。相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継します。単純承認するとはっきりと言わなかった場合でもある一定の行為をした場合は単純承認したとみなされます。たとえば、相続財産の処分、熟慮期間の経過、相続財産の隠匿などです。「相続財産の処分」には、遺産を売却するなどの法律上の処分はもちろん、物品を壊すなどの事実上の処分も含みます(ただし、過失による軽微な破損などは含まれません)。相続人が被相続人の有していた債権を取立てて、これを収受領得する行為なども処分にあたるとする判例があります(最判昭和37年6月21日)。ただし、相続人が不法占拠者に対して明渡しを求める行為などの保存行為を行った場合は単純承認をしたものとはみなされません。
なお、相続財産の処分により、単純承認する意志が黙示に表示されたとします。その理由は、①そもそも被相続人の財産がすでに自己の財産となってはじめて、相続人が相続財産を処分できるという権利を得るのだから、処分があったなら相続人が黙示的に単純承認したとみなされるので、単純承認の効果として継承される権利のみならず義務・責任をも負わせるべきだからです。また、②相続人が相続財産を処分した後に、限定承認や放棄をすると、相続財産の価値は減少し、範囲も不明確になってしまいます。これにより相続債権者・受遺者などの利益を害することを防ぐためには、単純承認をしたとみなすのが最善だからです。

 

借金だけを相続しないことはできるの?

できません。ただ、限定承認という方法があります。相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務および遺贈を弁済すべきことを留保して、承認をする方法です。ただし、相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができます。したがって、共同相続人の一人でも単純承認した場合は限定承認はできません。

 

(2016年度の問題にチャレンジ!)


【問 10】 甲建物を所有するAが死亡し、相続人がそれぞれAの子であるB及びCの2名である場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

  1. Bが甲建物を不法占拠するDに対し明渡しを求めたとしても、Bは単純承認をしたものとはみなされない。
  2. Cが甲建物の賃借人Eに対し相続財産である未払賃料の支払いを求め、これを収受領得したときは、Cは単純承認をしたものとみなされる。
  3. Cが単純承認をしたときは、Bは限定承認をすることができない。
  4. Bが自己のために相続の開始があったことを知らない場合であっても、相続の開始から3か月が経過したときは、Bは単純承認をしたものとみなされる。


解答:4

  1. 〇 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされます(民法921条1号本文)。ただし、保存行為を行った場合は、単純承認をしたものとみなされません(同法921条1項1号ただし書)。相続人が不法占拠者に対して明渡しを求める行為は保存行為に当たります。
  2. 〇 相続人が被相続人の有していた債権を取立てて、これを収受領得する行為は、民法921条1項に定める「相続財産の一部を処分したとき」にあたります(最判昭和37年6月21日 家裁月報14巻10号100頁)。したがって、Cは単純承認したものとみなされます。
  3. 〇 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができます(民法932条)。共同相続人Cが単純承認したときは、他の共同相続人Bは限定承認することができません。
  4. × 相続人が、自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に限定承認または相続の放棄をしなかったときは、単純承認したものとみなされます(民法921条2号)。したがって、相続の開始があったことを知らないBは、たとえ3カ月経過したときであっても、単純承認したものとはみなされません。なお、「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続人が相続開始の原因たる事実の発生を知り、かつそのために自己が相続人となったことを覚知した時をいいます(大決大正15年8月3日)。

 

 

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