田中嵩二の宅建士&賃貸管理士試験ブログ

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2018賃貸不動産経営管理士試験に関する雑感

2018年度賃貸不動産経営管理士試験が11月18日に実施されました。

解答速報及び予想合格ラインについては弊社のホームページに掲載しております。

 

平成30年度(2018年度)賃貸不動産経営管理士資格試験・解答速報 - 株式会社Kenビジネススクール

 

このブログでは、各社が発表した速報解答で異なる部分、及び、どちらともとれる微妙な内容の問題について、私個人の見解を記述します。

あくまでも、私個人の見解なので、試験実施団体にクレームを言っても返答はないと思われますのでご了承下さい。なお、私に対する意見等はいつでも受け付けております。

 

昨年度は、40問中2問について、問題に誤り等があり正解が2つとなっていました。
この記事を書いている段階では、まだ正式な解答が公表されていないので、どうなるのかわかりませんが、現段階で疑義のある問題は3問ほどあり、ここに記します。

 

問12の選択肢エは言い切れないのでは?

【問 12】 定期建物賃貸借契約に関する次の記述のうち、正しいものの組合せはどれか。
ア 定期建物賃貸借契約の事前説明は、「更新がなく、期間の満了により契約が終了する」旨を口頭で説明すれば足り、別途、書面を交付する必要はない。
イ 定期建物賃貸借契約書に「契約の締結に先立って説明を受けた」旨の記載がない場合には、事前説明書を交付して説明を行っていたとしても、定期建物賃貸借契約としての効力を有しない。
ウ 契約期間を1年未満とする定期建物賃貸借契約も有効である。
エ 賃貸借の媒介業者が宅地建物取引業法による重要事項説明書に基づき、「更新がなく、期間の満了により契約が終了する」旨の説明を行ったので、貸主による事前説明を省略した場合、定期建物賃貸借契約としての効力を有しない。
1.ア、イ

2.ア、エ

3.イ、ウ

4.ウ、エ

 

問12は、ウとエが正しい内容として正解は4と私は判断しました。

しかし、選択肢エは、私であれば、怖くてこのような表現では出題しないでしょうね。

まず、この問題の根拠条文となる借地借家法38条2項及び3項を確認しましょう。

前項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。(2項)
建物の賃貸人が前項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。(3項)

 

《公式テキスト》

そして、前記公式テキスト504頁19行以下には次の記述があります。

なお、この事前説明は、貸主または貸主代理人が借主に書面を交付して口頭で行う必要があり、賃貸借の媒介業者が仲介者の立場で宅地建物取引業法第35条に定める重要事項説明を行っても本項に基づく説明を行ったことにはならない点に留意する必要がある。

おそらく、上記の公式テキストの記述をベースに、本問選択肢エの問題を作ったものと思われます。

しかし、公式テキストが「媒介業者が媒介者の立場で」とあえて慎重に表現しているのに、問題文では「媒介業者が・・(中略)・・説明を行った」と「媒介者の立場」という表現を省いていることで、かなりニュアンスが異なって危ういものとなっています。

 

もう少し、深く、この点について解説します。

借地借家法38条2項「賃貸人は、・・(中略)・・書面を交付して説明しなければならない」の解釈として、賃貸人から依頼を受けた宅建業者が作成した重要事項説明書面に記載した同条同項の内容を、重要事項説明の中で賃借人に説明した場合、依頼形式が媒介なのか代理なのかで、定期建物賃貸借の効力に異同があるのかという点が、論点です。

 

《吉田修平説》

まず、「新基本法コンメンタール借地借家法」229頁には次の記述があります(弁護士・政策研究大学院大学客員教授 吉田修平)。

宅地建物取引業者は、建物賃貸借を媒介する場合において、重要事項説明書を交付し取引主任者をして説明させることを要する(宅建35)。当該宅地建物取引業者が定期借家契約の仲介をする場合には、賃貸人の代理人として事前説明文書の作成、交付、説明を行うことができるが、この際に、重要事項説明書に、上記(イ)の事前説明文書の記載事項として求められる事項が記載されていれば事前説明文書といえるのであろうか。

重要事項説明書は事前説明文書といえるとする見解(肯定説)といえないとする見解(否定説)があるが、上記のように、事前説明文書とされるには、あくまでも当該建物賃貸借契約が定期借家契約であることを賃借人に理解させることを専ら目的とした文書でなければならないから、重要事項説明書では事前説明文書たり得ないというべきである。 

 吉田修平先生の見解では、たとえ代理人であっても、重要事項説明書での説明では定期借家における事前説明としての要件を満たさないということになります。

 

渡辺晋説》

また、「建物賃貸借ー建物賃貸借に関する法律と判例」(大成出版社)351頁~には次の記述があります(弁護士 渡辺晋)。

この2つの義務の関係が問題となるが、賃貸人の事前説明と、宅建業者の重要事項説明とは、別々の主体に課せられた異なる根拠に基づく義務であり、それぞれに法に定められた異なる内容の説明義務がある。

すなわちまず、義務の主体が違う。事前説明は賃貸人、重要事項説明は仲介を行う宅建業者に課される義務である。次の根拠法が異なる。事前説明は借地借家法、重要事項説明は宅建業法が、それぞれ根拠法である。また説明事項にも相違がある。事前説明は更新がないことであるのに対し、重要事項説明は宅建業法により詳細に決められている説明事項である。

もっとも、更新がないことの説明について、宅建業者が賃貸人の代理人ないし使者として行うことは禁じられていない。実務でも、宅建業者宅建業法上の重要事項説明を行い、これとあわせて賃貸人の代理人ないし使者として、更新がない旨の説明を行うことが、一般的である。

 渡辺晋先生は、原則として、重要事項説明で兼ねることはできないが、代理人として、「重要事項説明」に際して、併せて説明することは可能としているものと思われます。その際の説明書面は重要事項説明書面とは別のものにするのか、重要事項説明書面に記載に付記したものでもよいのかは、記述から明らかではありません。

 

国土交通省の見解》

さらに、国土交通省が公表する「民間賃貸住宅の定期借家契約に関するQ&A」に次の記述があります。

Q11. 定期借家 契約を結ぶ前に書面を交付して行う説明は、賃貸人から委任を受けた代理人が行ってもよいのですか。
A11.
代理人が行うことも可能です。


Q12. 賃貸人の仲介をしている宅地建物取引業者が、「重要事項説明」として、「定期借家契約を結ぶ前に書面を交付して行う説明」と同様の説明を行った場合は、賃貸人から賃借人への説明が行われたことになるのですか。
A12.
「重要事項説明」は 仲介者としての宅地建物取引業者が行うものですが、これに対して、「定期借家契約を結ぶ前に書面を交付して行う説明」は賃貸人自らが行うものですので、それぞれ説明すべき方が異なります。したがって、「重要事項説明」を行っただけでは、「定期借家契約を結ぶ前に書面 を交付して行う説明」をしたことにはなりません。
なお、仲介者が賃貸人の代理人として「定期借家契約を結ぶ前に書面を交付して行う説明」をする権限を有する場合でも、宅地建物取引業者として行う「重要事項説明」とは説明すべき方が異なることに変わりはありませんから、仲介者は、それぞれの立場で、それぞれの説明を行う必要があります。

国土交通省は、仲介業者(媒介・代理)は、重要事項説明とは別に、そして(おそらく)重要事項説明とは別の様式の書面で、事前説明が必要であるとしているものと思われます。

 

さらに、国土交通省が宅建業者に宛てた通達に次の記述があります。

2 事前説明を重要事項説明とあわせて実施する場合の重要事項説明書上の記載に
ついて
そもそも事前説明と重要事項説明は、それぞれ別個の説明義務であるとされており(平成12年2月22日建設省経動発第21号経済局不動産業課長通知)、いずれか1つがあれば足りるということではなく、両方とも行う必要があるとされている。
これらをあわせて実施する場合であっても、法律上は、当該契約が定期建物賃貸借契約であり、契約の更新がなく、期間の満了により終了する旨が記載されていれば借地借家法第38条第2項の事前説明のための書面としての要件は満たされ、定期建物賃貸借契約は成立するところである。一方、運用通知は、重要事項説明書に事前説明の内容を記載することで事前説明と重要事項説明をあわせて行うことについて賃借人との間に誤解が生じないよう、同2(2)及び(3)の事項を重要事項説明書に記載し、賃借人に交付して説明することにより事前説明書の交付及び事前説明を兼ねる場合における一定の方法を例示したものであり、これによって定期建物賃貸借契約の成立要件に変更を加えるものではないことを申し添える。

として、重要事項説明書面のひな形を添付した通達を各業者に宛てています。その一部を以下に貼付します。

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「定期建物賃貸借に係る事前説明におけるITの活用等について

 

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「定期建物賃貸借に係る事前説明におけるITの活用等について

 

国土交通省のこの通達は、とても慎重に書かれた文章で、あくまでもこれまでの法解釈を変えないということを付言しつつも、重要事項説明書面に、定期借家における事前説明事項を書き入れたひな形を提示しているので、結果的に、重要事項説明の際に、重要事項説明書面で、定期借家の事前説明も可能であると言っているものと思われます。

 

《司法判断》

この点について、直接判断した最高裁判例はありませんが、間接的に触れた判例はあります(最判平成24年9月13日  民集第66巻9号3263頁)。

以上のような法38条の規定の構造及び趣旨に照らすと,同条2項は,定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って,賃貸人において,契約書とは別個に,定期建物賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により終了することについて記載した書面を交付した上,その旨を説明すべきものとしたことが明らかである。そして,紛争の発生を未然に防止しようとする同項の趣旨を考慮すると,上記書面の交付を要するか否かについては,当該契約の締結に至る経緯,当該契約の内容についての賃借人の認識の有無及び程度等といった個別具体的事情を考慮することなく,形式的,画一的に取り扱うのが相当である。
したがって,法38条2項所定の書面は,賃借人が,当該契約に係る賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず,契約書とは別個独立の書面であることを要するというべきである。
これを本件についてみると,前記事実関係によれば,本件契約書の原案が本件契約書とは別個独立の書面であるということはできず,他に被上告人が上告人に書面を交付して説明したことはうかがわれない。なお,上告人による本件定期借家条項の無効の主張が信義則に反するとまで評価し得るような事情があるともうかがわれない。

この判例は、定期建物賃貸借契約の原案なる書面を、事前に、賃借人にfaxしたという事案で、その契約書案は、後の契約書とは別個独立の書面ではないので、それをfaxしたからとって、事前説明における書面の交付には当たらないとしたものです。

私が、この判例で注目したいのは、最後の部分、「なお,上告人による本件定期借家条項の無効の主張が信義則に反するとまで評価し得るような事情があるともうかがわれない。」という点です。

一般法理の信義則ではありますが、たとえ、定期借家の事前説明に、重要事項説明書面と兼ねたり、重要事項説明と兼ねたり等の瑕疵があった場合でも、その無効を主張することが信義則に反するような場合には、無効とはならないとした点です。

 

《私の意見》

私は、それぞれの条文の趣旨、及び、上記判例に示された内容から、宅建業者が媒介した場合の重要事項説明による事前説明であっても、有効となる場合があると考えます。

その理由は以下の通りです。

まず、借地借家法38条1項の規定に加えて同条2項の規定が置かれた趣旨は、定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って、賃借人になろうとする者に対し、定期建物賃貸借は契約の更新がなく期間の満了により終了することを理解させ、当該契約を締結するか否かの意思決定のために十分な情報を提供することのみならず、説明においても更に書面の交付を要求することで契約の更新の有無に関する紛争の発生を未然に防止することにあるものと解されます(前記判例)。

この趣旨からだけなら、そのポイントは、説明する者が、賃貸人本人か、賃貸人の承諾を得て行う宅建業者における宅地建物取引士かは重要ではなく、賃借人が契約前に更新がない特殊な契約であることを十分に理解できるかどうかであると解されます。

この点、渡辺晋先生や国土交通省の行政解釈のように、法的根拠や説明主体の違いに着目し過ぎる点は疑問に思います。

ただ、最高裁が前記判例で「当該契約の締結に至る経緯、当該契約の内容についての賃借人の認識の有無及び程度等といった個別具体的事情を考慮することなく、形式的、画一的に取り扱うのが相当である」とした点には一理あります。賃借人が、更新がない等について十分理解できたかどうかを個別に判断することは困難なので、一定の形式を守って行った説明や書面であれば、原則として有効となる点は、実務を考慮したものと思われます。

その形式的・画一的な取扱いの一例として、国土交通省が告示・通達で示しているひな形があるものと思われます。

 

しかし、基本的な法解釈のルールとして、法律の条文や司法解釈(判例)に反するのではなく、行政解釈しかも通達レベルの内容に反する法律行為を一律に無効と判断してよいのかという点です。

その上でもう一度問題文を読むとかなり危ういものであることがわかると思います。

賃貸借の媒介業者が宅地建物取引業法による重要事項説明書に基づき、「更新がなく、期間の満了により契約が終了する」旨の説明を行ったので、貸主による事前説明を省略した場合、定期建物賃貸借契約としての効力を有しない。 

 この媒介業者が、前記の通達にある重要事項説明書面で、貸主の代理人・使者として説明したのであれば、事前説明として有効となる可能性は十分あります。また、賃貸借を媒介する宅建業者が、重要事項説明の内容について、依頼主である貸主の承諾を取っていないはずはなく、それが代理であるか媒介であるか使者であるかは借主にはあまり重要ではありません。また、前記のひな形において、代理か媒介かの違いは、以下に示すとおり、媒介・代理のどちらかかに〇を付けるだけです。

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定期建物賃貸借による重要事項説明書(参考様式)

推測するに、公式テキストが「媒介業者が仲介者の立場で」と念をおしたのは、上記のような微妙な法解釈がその背景にあるからだと思います。

本問の出題者は、果たして、どのような趣旨で、あえて「仲介者の立場で」という文言を省いて、判断が困難な表現に変えて作問したのかは疑問です。

 

 

問24は2か3で速報解答が対立

【問 24】賃貸借契約の更新に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
1 期間の定めのある建物賃貸借契約において、期間満了4か月前に更新拒絶の通知をした場合、当該契約は法定更新される。
2 期間の定めのある建物賃貸借契約が法定更新された場合、更新前の契約と更新後の契約は、契約期間も含め別個独立の同一性のない契約である。
3 更新料特約以外に更新手数料特約を定めることは、有効である。
4 建物賃貸借契約の更新に係る事務は、賃貸住宅管理業者登録制度では、基幹事務のーつとされている。

 

私は、問24の問題の解答を2と判断しました。ただ、3の可能性もあります。

私が正解を2とした理由は、2つあります。1つは、公式テキスト(「賃貸不動産管理の知識と実務【改訂3版】」)500頁の16行目以下に次の記述があるからです。

建物賃貸借契約が更新されると、契約期間を除き、契約の同一性が維持される。契約期間は、期間の定めのない賃貸借契約となる(借地借家法第26条第1項ただし書)。

昨年度の試験もそうだったのですが、上記の公式テキストに記載があるので、正解という判断がなされているので、おそらく出題者は上記の記述をもって2を正解にしようと考えているのかと思います。

 

ただ、借地借家法26条1項は次のように定めています。

建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。

条文を読む限り、同一の条件で更新したものとみなす、としか書かれておらず、従前の契約と法定更新後の契約の法的性質の同一性については明記していないともいえます。
実は、この点、学説上争いがあります。

大切な論点なので少し詳しくお話します。

まず、上記借地借家法26条1項の基となる民法619条を参照してみましょう。

賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百十七条の規定により解約の申入れをすることができる。(1項)
従前の賃貸借について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。ただし、敷金については、この限りでない。(2項)

前記の借地借家法と同様に、「同一の条件」としか明記されておらず、どの法的な同一性にまでは言及していません。
この点、上記の条文は当事者の意思の類推に基礎をおき、また、前賃貸借において当事者の意思によって期間を定めているという点も無視できないので、前賃貸借はいったん終了し、ただちに同一内容の新契約が擬制されたものであり、同2項本文は新旧賃貸借の同一性を否定する立場にあるというのが判例であり、有力な見解です(大判大正5年7月15日民録22輯1549頁)。

しかし、借地借家法という特別法によって法定更新が認められている場合には、その制度趣旨が異なるので、民法の解釈とは別に考えるべきとする考え方が有力です。前記の借地借家法26条などは、たとえ期間が満了しても正当事由を具備しない以上、契約の終了を認めず、その存続を強制しているからです。
すなわち、借地借家法上の法定更新は、契約の継続性を保障することによって住生活の安定をはかろうとするものであるから、その趣旨を理論構成に反映させ、新旧賃貸借の法律的同一性を承認すべきとする肯定説が通説的見解となっています(我妻栄「債権各論中巻一」(岩波書店、1957)439頁以下)。
これに対して、法定更新後の賃貸借は、賃貸人の意思をおさえる国の政策によるものであり、新たな債務が発生しているとみられるため、担保の効力は、担保や保証契約に特約がない限り引き継がれないとする否定説もあります(三宅正男「新注釈民法(15)」(有斐閣)731頁)。
その他、第三者の提供した担保や保証人については効力を及ぼすべきでないとする折衷説(薄根正男「借地・借家 借家編」(青林書院、1954)240頁)や、同一性の有無を抽象的・演繹的に論ずるべきではなく、問題となる具体的な各効果ごとに判断し、その有無は帰納的に判断されるべきとする見解もあります(星野英一「借地・借家法」(有斐閣、1669)68・502頁)。
この点に関して、更新前後の契約の同一性について直接言及した判例はありません。なお、建物賃貸借が合意更新された事案で、特段の事情のない限り、保証人は更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務の責めを負うとする判例はあります(最判平成9年11月13日判例時報1633号81頁)。しかし、同判決は、保証人となろうとす者の賃貸借継続についての予測可能性や、主債務の性質上、予期できない保証責任が一挙に発生することがないのが一般的であることなどを考慮し、そのように解するのが当事者の通常の合理的意思に合致するということを理由にしており、更新前後の賃貸借の同一性については説明しているわけではなく、保証契約の解釈の問題として捉えるものと分析されています(中田裕康「不動産賃借人の保証人の責任」千葉大学法学論集28巻1=2号(2013)654頁)。

以上から、前記公式テキストは、我妻説を採用して同一性を肯定しているものと思われます。ただ、明確な最高裁判例もなく、学説上の争いがある点について、公的な資格試験の解答を公式テキストにあることだけを理由に解答にすべきかは疑問です。

 

次に、選択肢3に関しては、公式テキスト502頁8行目以下に、

更新手数料は、管理業者が契約の更新手続を行う場合の事務代行手数料と考えられる。その額が相当であれば、その授受の約束自体は有効である。ただし・・・

と明記されています。さらに、690頁の4行目以下に、

期間満了ごとに更新事務を行い、更新料や更新事務手数料の授受がある場合には、初回更新時に、それら詳細を書面に記載して、借主等に十分に説明をして理解を得ておかなければならない。

と更新手数料が有効である範囲内での実務についても明記されています。したがって、私は選択肢3を正しい内容として正解を2と判断しました。

しかし、これも理論上「正しい」内容と判断できるかと言われればとても微妙です。上記の公式手テキストの引用文にもあるように、あくまでもその額が相当であれば、有効なのであって、問題文にあるように有効であると言い切ることはでません。
なお、更新料条項の有効性について、最高裁

賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の支払を約する条項は,更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらない。

と判示しています(平成23年7月15日判例タイムズ1361号89頁)。更新手数料についても同様に判断されるべきでしょう。

 

問38は正解が2つある?

【問 38】賃貸不動産経営管理士「倫理憲章」に関する次の記述のうち、正しいものの組合せはどれか。
ア 秘密を守る義務とは、職務上知り得た秘密を正当な理由なく他に漏らしてはならないことであり、賃貸不動産経営管理士の職務に携わっている間、守らなければならない。
イ 賃貸不動産経営管理士は、自らの能力や知識を超える業務を引き受けてはならない。
ウ 賃貸不動産経営管理士は、常に依頼者の立場で職務を行い、万一紛争等が生じた場合には、誠意をもって、その円満解決に努カしなければならない。
エ 賃貸不動産経営管理士は、公共的使命を常に自覚し、公正な業務を通して、公共の福祉に貢献しなければならない。
1.ア、イ
2.ア、ウ
3.イ、エ
4.ウ、エ


私は、イとエが正しい内容と判断し、3が正解と判断しました。

しかし、アも正しい内容といえます。おそらく、出題者は、退職後も同様に守秘義務を負うので、「職務に携わっている間」だけではないので誤りの内容としようとしたのだと思います。ただ、職務に携わっている間に守秘義務を負うということは誤りではないので、(細かい指摘かもしれませんが)論理的にはアも正しい内容としなければなりません。
そうなると、アとイとエが正しい内容となるので、1と3の両方が正解ということなってしまいます。

 

《参考》 

「賃貸不動産経営管理士」倫理憲章

 

 

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