田中嵩二の宅建士&賃貸管理士試験ブログ

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分譲マンションの管理者は区分所有者でなければいけないの?

Q.分譲マンションの管理者は区分所有者でなければいけないの?

 

A.建物の区分所有等に関する法律(以下、区分所有法と略す)に管理者の資格に関する制限はありません。

 

平成28年度宅建試験に出題された問題をピックアップして解説して行きます。

 

管理者と管理人は違うの?

違います。分譲マンションには、エレベーターの管理や共用の廊下の電灯の付け替えを業者に依頼する等、日常的に行わなければならない作業があります。共用部分の保守は、法律上は区分所有者全員のものなので、全員で行わなければなりません。しかし、実際には仕事などで忙しくて毎日そのようなことを行う暇がない人がほとんどでしょう。そこで、区分所有法では、集会の決議によって管理者を選任し共用部分、共有の敷地・付属施設の管理や集会の決議の実行を行わせることができるようになっています。なお、管理人とは、管理者、管理組合、管理会社などに雇用されて、日常の管理作業に従事する者をいいます。両者はまったく別の存在です。

 

分譲マンションのエレベーター室は誰のもの?

分譲マンションには、専有部分と共用部分があります。専有部分とは、区分所有権の目的たる建物の部分をいいます。専有部分となるには、構造上の独立性と利用上の独立性が必要です。共用部分には法定共用部分と規約共用部分があります。法定共用部分とは、数個の専用部分に通じる廊下または階段室その他、構造上区分所有者の全員またはその一部の共用に供されるべき建物の部分(たとえば、基礎・土台部分、エレベーター室など)をいいます。法定共用部分は、規約により定めた場合でも区分所有の対象にはなりません。それに対して、規約共用部分とは、専有部分の適格性を備えた建物の部分や附属の建物のうち、規約により共用部分とされたもの(たとえば、集会室など)をいいます。共用部分は、みんなが共同で使う部分なので、誰かが単独で所有するのは適当ではありません。そこで、共用部分は、区分所有者全員が共有することになっています。ただし、区分所有者の一部のみが共用すべき共用部分(一部共用部分)については、全員ではなく、その一部の者で共有します。たとえば、1階にある店舗部分のみで利用する出入り口や2階以上にある居住部分のみで利用するエレベーター室などです。

 

管理者は共用部分を所有できるの?

原則として、建物の共用部分は区分所有者全員の共有です(各共有者の持分は専有部分の床面積の割合によるのが原則です)。ただし、例外として、規約があれば、別段の定めができます。そして、規約があれば、区分所有者でない管理者も、建物の共用部分(法定・規約共用部分を問いません)を所有することができます。実際には管理人室を所有することが想定されています。通常、管理者は、建物の共用部分の管理に関して職務権限はありますが、保存行為のほかは規約で定めがある場合を除いては、単独で管理行為ができません。そこで、管理者を共用部分の所有者とすることで、共用部分の管理を円滑にすることを認めています。これを管理所有と呼びます。なお、管理所有になっていても、それはあくまでも便宜的なものであり、実質的な所有者は区分所有者全員なので、管理者には、共用部分を処分する権限(譲渡や担保権設定)や変更する権限はなく、管理所有になってもその登記はされません。

 

集会における管理者の役割は?

共用部分は区分所有者全員の共有となるので、保存行為以外については話し合いの上で決を採り決定して行くプロセスが必要となります。このプロセスの場を集会と呼びます。管理者はこの集会の場においても重要な役割を果たします。まず、規約に別段の定めがある場合および別段の決議をした場合を除いて、管理者または集会を招集した区分所有者の1人が議長となります。そして、管理者は、集会において、毎年1回一定の時期に、その事務に関する報告をしなければなりません。管理者は委任者(管理組合)に対する受任者の立場にあります。その受任業務を誠実に実行する義務があり、その一環として業務執行の状況を報告する義務があります。

 

 

(2016年度の問題にチャレンジ!)

【問 13】 建物の区分所有等に関する法律に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

  1. 管理者は、集会において、毎年2回一定の時期に、その事務に関する報告をしなければならない。
  2. 管理者は、規約に特別の定めがあるときは、共用部分を所有することができる。
  3. 管理者は、自然人であるか法人であるかを問わないが、区分所有者でなければならない。
  4. 各共有者の共用部分の持分は、規約で別段の定めをしない限り、共有者数で等分することとされている。

解答:2
  1. × 管理者は、集会において、毎年1回一定の時期に、その事務に関する報告をしなければなりません(区分所有法43条)。毎年2回報告する義務はありません。
  2. 〇 管理者は、規約に特別の定めがあるときは、共用部分を所有することができます(区分所有法27条1項)。
  3. × 建物の区分所有等に関する法律には、管理者の資格要件を定めた規定はないため、自然人でも法人でも区分所有者でも非居住者でもなることができます。
  4. × 各共有者の共用部分の持分は、その有する専有部分の床面積の割合によります(区分所有法14条1項)。共有者数で等分するわけではありません。

  

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取消の効果の(民法121条)の改正

取消の効果の(民法121条)の改正

平成27年3月31日 民法の一部を改正する法律案が後の宅建士試験に与える影響について定期的に解説します。

 

新旧対照条文

現行

(取消しの効果)
第121条
取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

 

改正案

(取消しの効果)
第121条
取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。

 

(原状回復の義務)
第121条の2
1 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。
2 前項の規定にかかわらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては、給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。
3 第一項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする。

 

改正案の内容

現行民法121条ただし書きが削除され、新たに121条の2という規定が追加されます。

同条1項において、法律行為が無効であったり、取り消された場合の原状回復については、民法第703条及び第704条は適用されないという見解がが有力に主張されていたことから、新たな規定を設けることでこれを明確にしました。具体的には、法律行為によって生じたとされる債務の履行として給付がされたが、その法律行為が無効であった場合や取り消された場合には、その給付について法律上の原因がなかったことになるから、給付をした当事者は、不当利得返還請求権に基づいてその返還を請求することができることになります。しかし、民法703条及び704条は一方当事者が相手方に一方的に給付を行う場合を主として想定して設けられた規定であり、法律行為が無効であったり取り消されたりした場合、特にその法律行為が有償契約である場合の原状回復には適用されないという考え方が有力に主張されており、現状ではこの場合の法律関係が不明確な状況にあります。

この規定は、民法第703条及び第704条に対する特則となります。


同条2項においては、無効な法律行為が無償契約である場合に、善意の受領者がいわゆる利得消滅の抗弁を主張することができることを定めるものです。すなわち、受領者が、給付の受領当時、法律行為が無効であること又は取り消すことができることを知らなかったときは、善意であった間に失われた利得について返還義務を免れ、悪意になった時点で現に利益を受けていた限度で返還すれば足りることを定めています。善意の受領者は、その給付が自分の財産に属すると考えており、費消や処分の後に現存利益を超える部分の返還義務を負うとするとこのような期待に反することになるからです。

なお、善意の受領者が利得消滅の抗弁を主張することができるのは、無効であった法律行為が有償契約以外の法律行為である場合に限られます。有償契約が無効又は取消可能であったとしても、それに基づく双方の債務は、当初は対価的な牽連性を有するものとして合意されていたものであるから、その原状回復においても、主観的事情や帰責事由の有無にかかわらず、自分が受領した給付を返還しないで、自分がした給付についてのみ一方的に返還を求めるのは、均衡を失し公平でないと考えられるからです。

 

同条3項においては、返還義務者が法律上の原因がないことについて悪意であった場合には本来利得消滅の抗弁を主張することができず、受領した給付全額についての返還義務を負うはずであるが、現行民法121条ただし書によれば、制限行為能力者はたとえ悪意であっても返還義務の範囲が現存利益に縮減されます。制限行為能力者については、適切な財産の管理能力がなく、浪費などによって給付による利得を失ってもその返還義務を負担させられないという考慮に基づくものであると考えられるが、改正民法121条の2第3項では、このような趣旨に鑑みて、同条ただし書を維持するものとしています。また、当事者が意思能力を欠く場合にも、同様に財産の管理能力がなく、同条ただし書と同様の趣旨が妥当することから、意思能力に関する規定を設けることに伴い、意思能力を欠く状態で法律行為をした者についても、同様にその返還義務を軽減しています。

 

審議の過程では、返還する金銭の利息支払や金銭以外の返還対象物から生じる果実の引渡まで義務付けるものであるかどうかについても、明記する案があったが、国会に提出された仮案からは削除されました。今後も解釈に委ねられます。

 

宅建試験への影響

無効・取消の効果およびその上での不当利得返還については、法理論上の対立・学説上の有力な反対説もあるからなのか、宅建試験でも直接的な形での出題はありません。特定物売買において契約締結前に特定物が滅失した場合に無効であるとすることを前提にした問題は出題されたことがあります。かなりリスキーな出題をしてくるなあと思いましたが…。

新しい民法121条2項で、これまで対立があった点について条文で明確化されたので、条文知識を問う出題は十分に考えられます。

なお、実務上はそれほど問題になる改正ではないでしょう。法律行為が無効となることは、そんなに多くあることではないからです。実際に、詐欺や脅迫等により取消され無効となった場合の返還義務等について、たとえ契約に事前に定めたところで、そのようなことをする輩から代金や相当額の返還が叶うことは現実的ではないでしょう。

 

法務省:民法の一部を改正する法律案

 

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