田中嵩二の宅建士&賃貸管理士試験ブログ

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抵当権の及ぶ目的物

抵当権の及ぶ目的物

 

1 抵当権の効力の及ぶ範囲(従物)

 

(1) 抵当権設定時の従物

 

現行民法の私権の客体の中心は有体物である。物はその性質から主物と従物に分類できる場合がある。建物と畳のように、一方が他方の効用を助ける物を従物、助けられる物を主物といい、従物は主物の処分に従う(民法87条)。

 

なお、従物の要件は、①継続的に主物の効用を助けるものであること、②場所的に主物に附属すると認められる程度の関係にあること、③主物と同一の所有者に帰属すること(この要件を不要とする説もある)、④独立した物であることの4つというのが通説である。

 

抵当権の効力は従物に及ぶのか。この点、抵当権設定時の従物に及ぶことについては以下の理由から異論がない。

 

第一に、民法87条2項は「従物は主物の処分に従う」と規定していること。第二に、同項の「処分」は債権契約のみならず物権的処分も含むこと。第三に、従物があることで、不動産の利用価値、交換価値が上がること。第四に、抵当権は不動産を対象とし、抵当権設定当時の従物を抵当権の効力からはずすのは、当事者の意思に反すること。第五に、大正8年(大判大正8年3月15日)からの確定した判例であること。

 

【重要判例

 

・大判大正8年3月15日

最判昭和40年5月4日

 

(2) 370条の付加一体物と従物(87条)との関係


民法370条は、「抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び第四百二十四条の規定により債権者が債務者の行為を取り消すことができる場合は、この限りでない。」と定める。

この付加一体物と従物の関係について学説上争いがある。

 

① 付加一体物説(多数説)

 

民法370条は設定の前後を問わず、附合物のほか従物も含むとする。その根拠としては以下の通りである。第一に、抵当権は目的物の占有を設定者にとどめ利用させながら価値を把握するものであり、備の取り替えや新たな設置は利用が設定者に委ねられているので当然に予定すべきであること。また、抵当権設定後に取り替えられた従物に抵当権の効力が及ぶとするのが当事者の意思に沿うこと。第二に、抵当権設定後の従物に抵当権の効力が及ばないとすると、設備のうち抵当権の及ぶものと及ばないものを確定する必要があること。またその公示をどうするかという問題が生じること。

 

② 設定時説

 

従物は「付加一体物」に含まれず、民法87条2項は、設定時の従物にしか適用されない。設定後の従物には不適用とする。その理由は以下の通りである。第一に、民法87条2項は、主物を処分する者の意思の解釈のための規定であること。第二に、民法370条にいう付加一体物とは、民法242条の附合物とほぼ同義であり、独立の物としての従物は含まれないこと。第三に、抵当権の設定を民法87条2項の「処分」と解釈すること。

 

③ 設定前後不問説

 

従物は付加一体物に含まれないが、抵当権設定時に存在していた従物のみならず、設定後の従物についても抵当権の効力が及ぶとする。その理由は以下の通りである。
第一に、民法370条にいう付加一体物とは、242条の附合物とほぼ同義であり、独立の物としての従物は含まれないこと。第二に、抵当権の実行を民法87条2項の処分と解釈する。

 

【重要判例

 

最判平成2年4月19日

 

2 分離物の抵当権の追及力

 

附合していた物が、後に不動産から分離されて動産となった場合に、抵当権の効力は、当該動産に及ぶか。たとえば、伐採されて動産となっている山林上の木材に対して抵当権の効力はそもそも及んでいるのか。さらに、そこから搬出された伐採木材に対しても抵当権の効力が及ぶのか。

 

多数説(我妻、鈴木等)

 

登記されている建物の中にある限り抵当権の効力に服し、搬出されてしまうと抵当権の効力はこれに及ばないとする。その根拠は以下の通りである。第一に、抵当権は登記を対抗要件とする権利であり、分離物が抵当不動産の上にあるうちは登記の公示に包まれていること。第二に、附属物に抵当権の効力が及ぶ根拠である抵当不動産との一体性が搬出によってなくなること。

有力説(星野、松本、槙)

 

搬出によっても抵当権の効力を離れず、第三者が即時取得するまで抵当権の追及力があるとする。その根拠は以下の通りである。第一に、抵当取引の実情を考えれば、第三者が即時取得するまで抵当権の追及を受け、優先弁済権も存在すると解するのが適切であること。第二に、利益衡量からしても、悪意者や過失ある第三取得者まで保護する必要はないこと。

 

【重要判例

 

・大判昭和7年4月20日

最判昭和57年3月12日

最判平成6年1月25日

 

3 抵当権と譲渡担保権の優劣

 

通説(我妻、柚木、於保、林)

 

従物に抵当権の効力が及ぶことを乙に対抗するには主物に抵当権の登記があればよく、従物の引き渡しその他特別の公示方法はいらないとする。その根拠は以下の通りである。第一に、主物と従物は客観的に結合している。主物に登記があれば従物にも抵当権の効力が及ぶことが公示されている。第二に、民法370条は、附加物(附合物、従物)の公示について、抵当権そのものの公示で足りることをも示すものと解すべきである。なぜなら、不動産の構成部分については特に規定を待つまでもないから、同条本文は従物に抵当権の効力が及ぶことについて特別な公示方法を要せすとする点に重要な意義を有し、従物に抵当権の効力は及ぶが対抗要件の問題を含まずと解するならばその意義は極めて薄くなるからである。


【重要判例

 

最判昭和44年3月28日

 

 

 

 

 

 

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