田中嵩二の宅建士&賃貸管理士試験ブログ

宅建士試験&賃貸不動産経営管理士試験の受験に役立つ情報を提供します。

未成年者が運転免許証を偽造して成年者のふりをして契約したら?

Q.未成年者が運転免許証を偽造して成年者のふりをして契約したら?

 

A.制限行為能力者であることを理由に取り消すことができなくなります。

 

平成28年度宅建試験に出題された問題をピックアップして解説して行きます。

 

ネット上の架空の人工知能は不動産取引できるの?

人工知能民法上の主体にはなれません。民法は最初のほうの規定で「人」とはだれをいうのかを定義しています。法律上の権利を行使したり、法的な効果の帰属できる主体についての議論です。この主体となるための地位・資格を権利能力といいます。民法はすべての「人」に対して平等に権利能力を認めています。民法上の「人」には自然人と法人があります。自然人とは生身の人間で、出生から死亡するまでをいいます。ただし、不法行為に基づく損害賠償請求、相続、遺贈について胎児は生まれたものとみなされます。法人とは、自然人以外で、法律上、権利・義務の主体になることができるものをいいます。たとえば、会社などがその典型例です。もし権利能力がなかった場合は法的な効果がその者に帰属しません。

 

認知症の方が不動産を売却する契約をした場合でも有効?

権利能力があったとしても誰もが単独で有効な契約ができるわけではありません。意思能力を備えていなければ契約は無効となります。意思能力とは、自分の行っていることの意味を理解できる能力をいいます。たとえば、年端のいかない子供(12~13歳程度まで)や重度の精神障害者や飲酒などによる酩酊者などは意思能力がない者の典型例です。このような人がたとえ契約などを結んできたとしても、自己の意思によって契約を締結したとは普通いえないため、法律上は無効となるわけです。

 

契約時に意思能力がなかったことを証明できないときは?

意思能力があるかないかが一見わからない場合があります。また、契約を結んだとき飲酒酩酊して意識がなかったということを後の裁判で証明することは困難です。そこで、民法は、一般的に判断能力が不十分であろう者(制限行為能力者)をそれぞれのグループにして、これに保護者をつけて判断能力不足を補わせる仕組みを用意しています。これが制限行為能力者制度です。
制限行為能力者には、未成年者、成年被後見人被保佐人、被補助人の4種類があります。未成年者とは、20歳未満の者をいいます。ただし、婚姻した場合は成年者と同様の扱いを受けます。成年被後見人とは、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者として、家庭裁判所による後見開始の審判を受けた者をいいます。被保佐人とは、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な者として、家庭裁判所による保佐開始の審判を受けた者をいいます。被補助人とは、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者として、家庭裁判所による補助開始の審判を受けた者をいいます。ただし、本人以外の者の請求で開始するときは、本人の同意が必要となります。


被補助人が補助人の同意を得たと嘘をついてした契約は取り消せる?

制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができません(民法21条)。条文の文言からは、未成年者が身分証明書を偽造し、自己を成年者であると誤信させる場合のように、制限行為能力者が完全な行為能力者であると誤信させる場合にのみ適用されるかに読めますが、判例・通説は、保佐人が保佐人の同意を要する行為について保佐人の同意書を偽造する場合のように、制限行為能力者がその法律行為について確定的に有効に法律行為を行うことができると誤信させた場合にも適用されると解しています。

 


(2016年度の問題にチャレンジ!)

【問 2】 制限行為能力者に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

  1.  古着の仕入販売に関する営業を許された未成年者は、成年者と同一の行為能力を有するので、法定代理人の同意を得ないで、自己が居住するために建物を第三者から購入したとしても、その法定代理人は当該売買契約を取り消すことができない。
  2.  被保佐人が、不動産を売却する場合には、保佐人の同意が必要であるが、贈与の申し出を拒絶する場合には、保佐人の同意は不要である。
  3.  成年後見人が、成年被後見人に代わって、成年被後見人が居住している建物を売却する際、後見監督人がいる場合には、後見監督人の許可があれば足り、家庭裁判所の許可は不要である。
  4.  被補助人が、補助人の同意を得なければならない行為について、同意を得ていないにもかかわらず、詐術を用いて相手方に補助人の同意を得たと信じさせていたときは、被補助人は当該行為を取り消すことができない。

解答:4

 

  1. × 古着の仕入販売に関する営業を許可されているだけであり、自己が居住するための建物の購入はここに含まれていません。したがって、法定代理人の同意を得ずに行った当該売買契約は取り消すことができます。
  2. × 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすることも、贈与の申込みを拒絶することも、保佐人の同意が必要な行為です。
  3. × 後見監督人は家庭裁判所に代わって許可を出す権限はなく、家庭裁判所に許可を求める立場です。
  4. 〇 制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができません。同意を得たと信じさせることも詐術にあたります。

 

 

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詐欺の改正

詐欺の改正

平成27年3月31日 民法の一部を改正する法律案が後の宅建士試験に与える影響について定期的に解説します。

 

新旧対照条文

現行

(詐欺又は強迫)
第九十六条

1 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

 

改正案

(詐欺又は強迫)
第九十六条
1 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

 

改正案の内容

民法第96条第1項は維持されます。

 

審議の過程では、1項の後に新たな項を設けて、相手方のある意思表示において、相手方の代理人が詐欺を行った場合には相手方本人が悪意であるかどうかにかかわらず意思表示を取り消すことができるという判例法理(大判明治39年3月31日民録12輯492頁)を明文化し、相手方から契約締結の媒介の委託を受けた者が詐欺を行った場合にも、同様に、相手方本人が悪意であるかどうかにかかわらず意思表示を取り消すことができる旨を定めるとする案がありましたが、最終的に国会に提出された仮案には明記されませんでした。

 

2項は、第三者による詐欺が行われた場合に表意者が意思表示を取り消すことができるのは、相手方本人が第三者による詐欺を知っていたときだけでなく、知ることができたときも含むとされました。改正の趣旨は、第一に、第三者の詐欺について善意の相手方に対して意思表示を取り消すことができないこととするのは、当該意思表示が有効であるという信頼を保護するためなので、その信頼が保護に値するもの、すなわち相手方が無過失であることが必要であること、第二に、表意者の心裡留保については、相手方が善意であっても過失があれば意思表示が無効とされることとのバランスから、第三者の詐欺による意思表示についても、相手方本人がそれを知ることができたときは取消しが認められるべきであることの2つが主張されています。

 

3項は、詐欺による意思表示を前提として新たに法律関係に入った第三者が保護されるための要件について善意だけでなく、無過失も要件となりました。これは、学説上の多数説です。

法律行為が無効である場合や取り消された場合の第三者保護規定は、通謀虚偽表示、錯誤等においても問題となりますが、第三者が保護されるための要件は一貫した考え方に従って定める必要があります。表意者が権利を失うという効果を正当化するためには第三者の信頼が保護に値すること、すなわち第三者の善意無過失が必要であることを原則としつつ、無効原因、取消原因の性質に応じて検討すべきであるという考え方が示されています。
第三者が保護されるための主観的要件については、その立証責任を表意者又は第三者のいずれが負うのかについても議論があります。第三者が自分の善意(及び無過失)を主張立証しなければならないという考え方が一般的ですが、第三者が悪意であること又は過失があることを表意者が立証しなければならないという考え方もあります。今回の改正によっても、この点について特定の立場を支持するものではなく、立証責任の所在は引き続き解釈に委ねるものとされました。

 

宅建試験に与える影響

詐欺については、宅建試験での超頻出分野です。宅建試験では、強迫との比較、物権変動を伴う取引において取消前後での第三者保護要件の異同についてよく出題されています。今回の改正は、単に相手方、第三者の主観的な要件に「無過失」が付け加わっただけなので、受験対策的にはただそれだけです。事例問題で出題された場合に少しだけわかりにくくする問題を作れそうですが。

なお、強迫については、改正により影響を受けません。すなわち、3項を反対解釈して、善意・無過失の第三者にも取消の主張が可能と解釈されます。

実務的には、普段の職務になんら影響はないでしょう。冗談ですが、詐欺を業としていれば影響ありますが(笑)。ただ、詐欺事件に巻き込まれた場合には、単に知らなかったという主張だけでなく、過失がなかったことも主張・立証する必要がでてくるので、契約書面、重要事項説明や契約書の説明の録音、契約に立ち会った人の肩書、国家資格取得者であればその証明書を提示してもらい写真を撮っておくなど、取引にあたり慎重に行動した旨をあとで証明しやすくするとよいと思います(滅多にないリスクのためにここまでやるのはあれですが、重要な不動産の購入等は一生に何度もないことなのでそこまでしても苦ではないかな)。

 

 

 

法務省:民法の一部を改正する法律案

 

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