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無権代理人が本人を相続した場合の法律関係

無権代理人が本人を相続した場合の法律関係

 

1.要点整理

 

 無権代理人と相続という典型論点の検討である。同論点には,①無権代理人が本人を相続した場合,②本人が無権代理人を相続した場合,③共同相続の場合の3つの論点あるが,本書では①を検討する。
 無権代理人が本人を相続した場合の法的構成については,伝統的な学説対立と判例理論があるのでまずそれを整理しなければならない。そして,後記平成10年の最高裁判決で示された,本人の追認拒絶前後による場合分けを考慮する必要がある。

 

2.学説の動向

 

 無権代理人が本人を相続した場合における無権代理行為の効力如何。

 

(1)追完説(於保・民商法雑誌1巻4号157頁)

 

 判例理論である人格承継説を批判し、普通の場合の相続(家督相続)ならともかく、遺言執行者の任命されている場合、無権代理人が共同相続人の一人である場合、無権代理人が無能力者の場合にも、無権代理人が本人を相続した場合には、相続開始と同時に当然に無権代理行為が有効となってしまうという不当な結果を生ずる。それ故、無権代理人は家督相続によって本人から処分目的物を承継するとともにその処分権をも承継するわけだから、これによって無権代理行為は代理権の欠缺が追完されることになり、無権代理行為は有効となると解すべきであるとする。

 この説は非権利者の行為の追完の理論によって解決すべきものとなし,相続にこだわらない。ただ相続を通して無権代理行為の追完が行われたとみる(実方・法学4巻7号2頁、同旨遠田・民商法雑誌41巻5号776頁)。昭和一三年の大審院判決もこの説の影響を受けたと認められる。この説は、昭和9年9月の大審院判決に対する判例批評のなかで述べられたものである。

 しかし,この説によると、たまたま本人が無権代理人に処分目的物を贈与した場合には、無権代理行為が有効となり、本人に無権代理行為の効果が帰属するという不都合な結果が生ずる(信義則説からの批判)。

 

(2)信義則説(杉之原・民商法雑誌9巻5号866頁)

 

 無権代理人が本人から完全なる追認権を相続した場合に,追認の拒絶をすることは、私的自治の精神に反し、信義則にもとるから、相続によって無権代理行為は有効となるものと解する。

 しかし,追認の拒絶を禁止することはできても、無権代理行為が相続と同時に当然有効となるという結論を導くことはできない(人格融合説からの批判)。

 

(3)人格融合説(四宮・判例民事法昭和17年度42頁,同旨真田・法学新報53巻2号255頁)

 

 相続によって人格の承継を生ずると考えるのではなく、相続によって本人と無権代理人との両資格が同一人格に融合するのであり、代理権の媒介を必要とせずして当然に法律効果がその同一人格に帰属することが確定し、通常の自己のためになされた法律行為とする。

 

(4)非当然有効説

 

 無権代理人が本人を相続しても、当然には有効とも無効ともいえないとする。
 現行法では遺産相続制度だけが存在し、したがって相続人の数が複数で共同相続をすることが建前となったから,共同相続人の一人が無権代理行為をなした場合には、この者と他の共同相続人との法律関係が当然に問題となってくる。すなわち,旧法の家督相続におけるように相続人が家督相続人一人だけの場合には,無権代理人が本人を相続することによってその無権代理行為が当然に有効となると解することは相手方保護の観点からいって妥当と考えられるが、遺産相続が開始して数人の共同相続人がある場合に、共同相続人の一人が無権代理行為を相続開始前になしていても、相続開始と同時にその無権代理行為が当然に有効となるものと考えることは、他の共同相続人の追認拒絶権を奪うことになって不当である。

 また,相続は被相続人が生きているのと同じ法律関係を,相続人を通じて維持するにすぎない。被相続人の法律関係を変えない分析的立場の方が相続の法理に忠実である。

 さらに,相手が取消権(115条)や損害賠償請求権(117条)の行使を望む立場もある。これらを相続により当然に奪うのは妥当とはいえない。共同相続の場合には当然有効説のメリットである簡明さは失われる。さらに,他の共同相続人の利益を不当に害することもある。

 

3.判例の動向

 

 旧法時代の家督相続による単独相続が行われていた当時、この問題についていくつかの大審院判例があった。

 昭和2年3月22日(民集6巻3号106頁)、昭和7年1月22日(法学1巻2号95頁)、昭和9年9月10日(民集22巻20号1777頁),同年10月31日(法学4号120頁)、昭和10年8月8日(新聞3881号14頁)、同年12月28日(裁判例9巻民法360頁)、昭和13年11月16日(民集17巻22号2216頁),昭和17年2月25日(民集21巻4号164頁)である。

 最高裁判例としては、昭和40年6月18日(民集19巻4号986頁),平成10年7月17(民集52巻5号1296頁)などがある。

 最初の判例である前記昭和二年の大審院判決は「本人卜代理人トノ資格ガ同一人ニ帰スルニ至リタル以上本人ガ自ラ法律行為ヲ為シタルト同様ノ法律上ノ地位ヲ生ジタルモノト解スルヲ相当トス…単ニ無権代理行為ナリトノ理由二基キ叙上ノ如ク無権代理人ガ本人ヲ相続シタル場合卜雖同人ハ其ノ本人タル資格二基キ追認ヲ拒絶シ得べク従テ又無権代理人タル資格ニ於テ損害賠償ノ責ニ任ズルコトヲ得べシト謂フガ如キハ徒ニ相手方ヲ不利益ナル地位ニ陥ルル結果ヲ生ズルコトヲ免レ難ク其ノ許スベカラザルコト言ヲ挨タザル所〔ナリ〕」と判示した。

 この判例はその後の事件の指導的判例の役割を果たし、各判決とも「本人みずから法律行為をなした場合と同様の地位を生ずる」旨を繰り返し判示している。

 ただ前記昭和一七年の判決は,右理由とともに「斯ル債務ヲ負担セル者〔無権代理人〕ガ本人ノ地位ニ就キタル場合ニ於テハ寧ロ相手方ニ対シ無権代理行為ノ追認ヲ為スベキコソ相当ナレ今更追認ヲ拒絶シテ代理行為ノ効果ノ自己ニ帰属スルコトヲ回避セムトスルガ如キハ信義則上許サルべキニ非ザレバナリ」として追認拒絶権(113条)禁止の根拠を信義則に求めている。

 最高裁の最初の判例である前記昭和40年の判決は、前記昭和2年の大審院判決をそのまま踏襲した判決をしている。

 

(1) 最判昭和40年06月18日 民集 第19巻4号986頁 

 

 無権代理人が本人を相続した場合における無権代理行為の効力が争われた事案において,最高裁は,「無権代理人が本人を相続し,本人と代理人との資格が同一人に帰するにいたつた場合には,本人がみずから法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当である」とした。

 

(この判決の評論)

○谷口・民商法雑誌47巻6号960頁
○同・家族法判例百選(新版・増補)207頁
○栗山・法曹時報17巻8号101頁
○宮井・法律時報38巻3号69頁
○平井・法学協会雑誌83巻2号271頁
○中川(淳)・民商法雑誌54巻2号175頁

 

(2) 最判平成5年01月21日 集民 第167号331頁 

 

 無権代理人が本人を共同相続した場合における無権代理行為の効力が争われた事案において,最高裁は,「無権代理人が本人を共同相続した場合には,共同相続人全員が共同して無権代理行為を追認しない限り,無権代理人の相続分に相当する部分においても,無権代理行為が当然に有効となるものではない」とした。ただし,反対意見がある。

 

(3) 最判平成10年07月17日 民集 第52巻5号1296頁

 

 本人が無権代理行為の追認を拒絶した後に無権代理人が本人を相続した場合における無権代理行為の効力が争われた事案において,最高裁は,「本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合には,その後無権代理人が本人を相続したとしても,無権代理行為が有効になるものではない」とした。

 

 この判例の立場によれば,相続が本人の追認拒絶の前か後かにより効果に違いが生ずるとして,学説上批判が多いところである。

 

以上。

 

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