田中嵩二の宅建士&賃貸管理士試験ブログ

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土地を購入し手付金を支払ったが、後日登記情報を調べてみたら他の人に売却されていた場合、どうすれば?

Q.土地を購入し手付金を支払ったが、後日登記情報を調べてみたら他の人に売却されていた場合、どうすれば?

 

A.債務不履行として売主に損害賠償請求することができます。

 

平成28年度宅建試験に出題された問題をピックアップして解説して行きます。

 

 

債務不履行って何?

債務不履行とは、債務者が、正当な事由がないのに債務の本旨に従った給付をしないことをいいます。契約に違反することとほぼ同じ意味と思ってください。伝統的な見解に従えば、債務不履行には「履行遅滞」「履行不能」「不完全履行」の3つの類型があると言われています。履行が可能であるにもかかわらず履行すべき時期が経過しても履行がなされない場合が履行遅滞。債権発生後に履行ができなくなる場合が履行不能。債務者が一応お履行をしたけれども、その履行が不完全である場合が不完全履行です。不完全履行は条文に明記されているわけではありませんが、「債務の本旨に従った履行」(民法415条)という文言の解釈から認められています。債務不履行となれば、債権者は、損害賠償請求ができ、契約を解除することもできます。
債務不履行については、過去10年間で5回も宅建試験に出題されています。とても重要な概念なのでしっかりと勉強してください。

 

損害賠償請求するためには?

債務不履行に基づく損害賠償責任が発生するための要件は、①債務の存在、②債務の本旨に従った履行がなされないこと、③債務者の帰責事由、④損害の発生、⑤不履行と損害との間に因果関係があること、の5つです(さらに、違法性、責任能力を要求する見解もあります)。なお、金銭債務の場合は、③の要件が課せられていません。期限に履行しなかったときは常に履行遅滞となり、債務者は不可抗力をもって抗弁できません。また、損害の証明もする必要がなく、特約がなければ損害額は法定利率の年5%となります。

 

不動産が二重に譲渡されるとどうなるの?

債権成立時(契約したときなど)には履行が可能であったが、その後に不能となった場合(後発的不能といいます)を履行不能といいます。ちなみに、債権発生のときにすでに不能である場合(原始的不能といいます)は、そもそも債権が成立しないので、債務不履行の問題は生じません。履行が不能になったかどうかは、物理的な不能の場合に限らず、社会の取引観念に従って債務を存続させることが適当ではない場合一般を含むとされています。具体的には、売買の目的物が盗難にあって行方不明の場合や、不動産が二重譲渡され第三者に登記が移転された場合などです。
不動産が二重に譲渡されると、原則として、先に移転登記をした方がその不動産の正式な所有者となります。これは民法では物権の帰属の話です。次に、登記に遅れて不動産を取得できなかった買主は、売主に対して履行不能を原因として損害賠償請求できます。また、要件を備えれば、債権侵害等を理由に先に登記をした買主に対して不法行為責任等を追及することもできます。さらに、詐害行為取消権を行使して他方の売買契約を取り消すことが可能な場合もあります。

 

契約前の説明義務違反も債務不履行

契約に付随する信義則上の義務として債務不履行と捉える見解も有力ですが、平成23年最高裁判所判例では、契約締結上の説明義務違反は債務不履行責任とならず、不法行為責任の問題としました。債務不履行と捉える見解は、不法行為の要件が日本より厳格なドイツで発展したものです。そういった点も考慮した最高裁判例だったのかと思われます。

 

学習のポイント

不動産の二重譲渡で登記まで移転されていれば履行不能。契約の準備段階での説明義務違反は債務不履行ではない。金銭債務の場合は帰責事由も損害の証明も不要で損害額は法定利率の5%が原則。

 

(過去問にチャレンジ!)

【問 題】債務不履行に基づく損害賠償請求権に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。(平成24年度 問8)
1 AがBと契約を締結する前に、信義則上の説明義務に違反して契約締結の判断に重要な影響を与える情報をBに提供しなかった場合、Bが契約を締結したことにより被った損害につき、Aは、不法行為による賠償責任を負うことはあっても、債務不履行による賠償責任を負うことはない。
2 AB間の利息付金銭消費貸借契約において、利率に関する定めがない場合、借主Bが債務不履行に陥ったことによりAがBに対して請求することができる遅延損害金は、年5分の利率により算出する。
3 AB間でB所有の甲不動産の売買契約を締結した後、Bが甲不動産をCに二重譲渡してCが登記を具備した場合、AはBに対して債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができる。
4 AB間の金銭消費貸借契約において、借主Bは当該契約に基づく金銭の返済をCからBに支払われる売掛代金で予定していたが、その入金がなかった(Bの責めに帰すべき事由はない。)ため、返済期限が経過してしまった場合、Bは債務不履行には陥らず、Aに対して遅延損害金の支払義務を負わない。

 

正解:4


1○  契約の一方当事者が、当該契約の締結に先立ち、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には、上記一方当事者は、相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき、不法行為による賠償責任を負うことがあるが、その契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはありません。
2○ 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は年5%となります。
3○ 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができます。不動産の二重売買において、一方の買主に対する売主の債務は、特段の事情のない限り、他の買主に対する所有権移転登記が完了した時に、履行不能となり、損害賠償義務が発生します。
4× 金銭の給付を目的とする債務不履行に基づく損害賠償は、債務者の不可抗力をもって抗弁とすることができません。したがって、Bは債務不履行責任としてAに対して遅延損害金の支払い義務を負います。

 

 

  

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